知っておきたいドイツソーセージの世界
ビール王国12号から転載(一部抜粋)
ソーセージの本場、ドイツ。ビールのスタイルが多種多様であるのと同様、ドイツではソーセージの種類も多種多様だ。「ビール=ピルスナー」ではないように、「ソーセージ=腸詰め」でもない。ビール同様、はるか昔からソーセージに情熱を傾けるドイツ人の努力の結晶がそこにはある。深遠なるドイツソーセージの世界へ、ようこそ。
文:富江弘幸 写真:泉大悟 協力:ドイツ食品普及協会 森本智子、ケーニッヒ
ソーセージ概論
ドイツソーセージとは何なのか
ソーセージの世界に足を踏み入れる前に、まずはソーセージの定義について知っておきたい。次ページで紹介しているソーセージを見ると、見た目はハムと同じようなものもあり、「これもソーセージ?」と思ってしまうかもしれない。いわゆるフランクフルトのように、ソーセージは挽き肉が腸に詰められたものというイメージがあるが、それは単にソーセージのひとつの種類でしかないのだ。
ハムとソーセージの違い
ハムもソーセージも加工肉という意味では同じ。では、どこに違いがあるかというと、肉をそのまま使うかどうかということ。ハムは、塩漬けした肉のかたまりを燻製にしたもの(基本的には豚肉を使う)。その後、加熱加工をするかどうかなどでハムとしての種類は変わってくるが、肉をかたまりのまま加工したものがハムといえる。
一方、ソーセージはまず肉を挽き肉、もしくは細かく刻み、香辛料や副原料を加えて形を整え、燻製・加熱加工したもの。形を整える際には、動物の腸や胃などに詰める。また、肉の種類も豚肉だけに留まらず、牛、鶏、羊なども使うことがあり、内臓や血も副原料として使うこともある。
冒頭に書いた通り、肉をそのまま使うかどうかの違いで、完成形がいかにもハムのような形をしていても、挽き肉にしてから加工していればそれはソーセージと呼ばれるものになる。
ソーセージの歴史
ソーセージの歴史はかなり古い。ミュンヘンなどドイツ南部のバイエルン州でよく食べられているヴァイスヴルストは、1857年に初めて作られたものだが、それでも比較的新しい種類に入る。さかのぼれば、紀元前8世紀の吟遊詩人ホメロスが書いた叙事詩『オデュッセイア』にもソーセージの記載があるという。
そのソーセージの味わいに変化があったのは大航海時代。ヨーロッパに入ってきたスパイスがソーセージにも使われるようになり、次第に洗練されて現在の形に近いものになっていった。
ソーセージの種類
では、ドイツではどれくらいの種類のソーセージがあるかというと、約1500種類にもなると言われている(96ページ参照)。ソーセージは「ヴルスト」と呼ばれ(ハムは「シンケン」と呼ばれる)、製法の違いによって大きく3つに分けることができる。
1.ブリューヴルスト
肉を腸詰めした後に加熱加工したソーセージ。「ブリュー」とは「茹でる」という意味だが、食べる直前に茹でて食べるタイプということではなく、加工時に加熱しているということ。焼いて食べるテューリンガーもブリューヴルストのひとつ。
2.ローヴルスト
加工時に原料肉を加熱せず、食べる際にも加熱しないソーセージ。「ロー」とは「生」という意味。メットヴルストが代表的なローヴルストだが、ペースト状でパンに付けて食べるものもある。
3.コッホヴルスト
あらかじめ加熱した肉を挽き肉にし、内臓や血を加えて生地にする。それを腸などに詰めたもので、レバーを使ったレバーヴルストや豚の血を使ったブルートヴルストが代表的。
ドイツ国内の地域での違い
ドイツ北部ではローヴルスト、南部ではブリューヴルストがよく食べられていたり、東部では牛肉を使ったソーセージが多かったり、といったゆるやかな傾向はあるが、どの地域に行っても多くの種類のソーセージを食べることができる。各都市・地域によって特色のあるソーセージが作られており、その魅力は尽きることがない。次ページでは、ドイツの主なソーセージを紹介している。もちろん日本でも食べられるものなので、気になるソーセージがあればぜひ試していただきたい。
≪知らなかった!ソーセージFAQ≫
1.ソーセージのおいしい食べ方は?
焼いて食べるソーセージ(テューリンガー、ニュルンベルガーなど)や茹でて食べるソーセージ(ヴァイスヴルストなど)以外は、焼いても茹でてもいい。違いは香ばしさが出るかどうか。また、焼くと水分が飛びやすいので、茹でるよりも味が濃く感じるようになる。茹でるのであれば、ソーセージの温度が73 度になるようにすると味が落ちにくい。沸騰して火を止めたお湯に冷蔵庫から出したソーセージを入れ、大きさによって5 分から10 分程度待てばOK。沸騰させたまま茹でると、水分が飛びすぎてしまうので注意。
2.切れ目を入れて食べるのはアリ?
ソーセージの種類によっては(特に太いソーセージ)、加熱している間に爆発してしまうこともあるので、切れ目を入れることがある。切れ目を入れて焼くと油がそこに移るので、ややしつこい味わいに。しつこい味わいが苦手な人はグリルパンなどを使って油が移らないようにするとよい。切れ目を入れて茹でても、73 度であれば肉汁は出ないが、高い温度だと肉汁が出てしまう。
3.ソーセージは新鮮なほうがいい?
種類による。サラミのような加工時に加熱しないソーセージ(ローヴルスト)は、中で乳酸菌が生きているので、2 週間、1 カ月と日が経つにつれて味わいが変わる。フランクフルターのような加工時に加熱するソーセージ(ブリューヴルスト)は、一般的には新鮮なほうがよく、日が経つにつれ徐々に鮮度は落ちていくが、味わいはマイルドに。どの段階がよいかは好みによる。
4.ソーセージの保存方法は?
細菌と酸化が劣化の原因なので、真空パックになっているものであれば保存料なしで常温でも1 カ月は持つ。それ以外は、酸化しないようにラップなどで包み、冷蔵庫で保管。とはいえ、おいしく食べるには3 日程度で食べきったほうがよい。特に、量り売りなどで切られているものは、できるだけ早めに食べるようにしたい。
5.コンテストで金賞受賞したものは本当においしい?
ドイツ・フランクフルトで3 年に一度開催されるI FFA(イーファ)や南ドイツ食肉組合が主催するSÜFFA(ズーファ)、ドイツ農業協会主催のDLGなどのコンテストがあり、日本からも多くのソーセージ職人が参加して多数受賞している。ただし、金賞を獲ったとしても世界一ということではない。
食品コンテストの多くは、厳密な審査基準があって、その基準をどれだけ満たしているかを審査するもの。当然、絶対評価なので金賞はひとつではない。コンテストでの受賞は、おいしいかどうかの基準ではなく、ある程度のレベルに達しているという基準となるものなのだ。とはいえ、金賞を受賞するソーセージのクオリティは高い。あとはあなたの好みに合うかどうか。
6.ドイツソーセージの種類はどれくらいある?
1000種類以上と言われているが、同じ製品でも地域によって呼び名が変わることがあり、その数は定かではない。例えば、レバーケーゼにはレバーの入っていないレバーケーゼがあり、南部の地域ではそれをフライシュケーゼと呼ぶ。また、同じ原料で作った同じ種類のソーセージでも、太さが変わったり加工時の加熱時間が変わったりすることで味わいや食感が変わってくる。その意味では、味わいの種類としては無限にあると言ってもいい。