日本のブルワリー探訪 vol.02
~ブリマーブルーイング~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに渡り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第2回目は、神奈川県川崎市のブルワリー「ブリマーブルーイング」です。

ブリマーブルーイング

「ブリマーブルーイング」は2011年4月、醸造責任者であるスコット・ブリマーさんと奥様の佳子さんが神奈川県川崎市高津区に設立したブルワリーだ。翌年からビールの販売を開始し、2017年3月には地元のJR南武線の久地(くじ)駅前に直営のビアパブ「Brimmer Beer Station Kuji(ブリマービアステーション久地)」をオープンした。

定番は、DREAMBEERでも提供している「ペールエール」「ポーター」「ゴールデンエール」の3種類。季節や依頼により限定ビールもつくるが、定番ラインアップは創業から一度も変えていない。スコットさんがつくるビールは、多くのビールファンはもちろんのこと、“川崎の地ビール”として地元の人々からも長きにわたり愛飲されている。

2017年にオープンした直営のビアパブ「ブリマービアステーション久地」。ビールは定番に限定ビールを加えた4種類で、ビアフライトも用意。ソーセージやフィッシュ&チップス、ポテトサラダのようなおつまみも豊富に揃えている

スコットさんはアメリカのカリフォルニア州で生まれ、大学時代に佳子さんと知り合い結婚。2002年からは「シエラネバダ ブリューイング カンパニー」でブルワーとして経験を積み、腕を磨いていった。同ブルワリーはアメリカンクラフトビールブルワリーの草分けであり、世界中の醸造家から尊敬を集める存在だ。中でも「シエラネバダ ペールエール」は「アメリカンスタイルの元祖」と言われ、多くのブルワリーの手本にされるほどのクオリティを誇る。

2006年、佳子さんの家族が住む日本で活動しようと拠点を移すことにした。静岡県御殿場市にある「御殿場高原ビール」に就職、日本の文化や習慣を職場や生活の中で学んでいった。同ブルワリーは創業時にドイツからブラウマイスターを招いたこともあり、ラインアップは「ピルス」「シュヴァルツ」「ヴァイツェン」など、ドイツのビアスタイルが中心だ。スコットさんはアメリカンクラフトビールとは異なるスタイルの醸造法を習得、研鑽を積むとともにビールイベントで知り合ったブルワーやビールファンとの交流を深め、日本のクラフトビール事情についても見識を広めている。

御殿場では親切な仕事仲間にも恵まれ充実した日々を送っていたが、徐々に芽生えていった想いがあった──「自分が飲みたいビールづくりに自由にチャレンジしたい、自分自身のブルワリーがつくりたい」。

2010年前後は、1990年代終わりから相次いでいたマイクロブルワリーの閉鎖が一段落し、「地ビール」と呼ばれていたビールが「クラフトビール」と呼ばれだした頃だ。いわゆる“地ビールブーム”が去り、クラフトビールブルワリーが生き残りをかけてビールのクオリティ向上に精力を注いでいた。

「『今がチャンスなんだ、この波に乗らないと再度来る“クラフトビールの波”に乗り遅れる』と、繰り返し語っていたスコットさんの姿を、佳子さんは鮮明に覚えている。

「当時アメリカではすでにクラフトビールが盛り上がっていたこともあり、日本でも遅れてブームが来るはずだと勘が働いたのだと思います。でも、ちょうど創業準備をしていた頃に東日本大震災がありました。私はこんな時期なのに会社を立ち上げてうまくいくのかとても不安で、『本当にいま創業して大丈夫なのか』とスコットと何度か議論したんです。しかしながら、彼の考えは揺らぐことはなかった。とにかく『早く立ち上げることに意味があるのだ』と」。 「彼は決してブレません。自分の信念を貫く職人です」──佳子さんは言葉を続けた。

醸造施設は、1000ℓの仕込釜と1000ℓの発酵タンク2基、2000ℓを9基備える

何杯でも飲みたいクラシカルなビールが理想

スコットさんが理想とするのは、「インターナショナル」なビールだ。ブリティッシュスタイルのように麦芽の甘味が楽しめ、アメリカンスタイルのようにホップの香りが豊かで、ドイツのような醸造技術の精密・正確さを持って日本で愛されているようなクリアなもの。かつ、伝統的なつくり方で高品質なビールを目指す。

ブリマーブルーイングが創業してから10年以上経過する中、アメリカを中心にさまざまなビアトレンドが生まれ、ビアスタイルそのものも飛躍的に増えた。しかし、同ブルワリーの定番は創業時と変わらず「ペールエール」「ポーター」「ゴールデンエール」のみ。その点にもスコットさんの揺らぎない信念が見て取れる。

醸造責任者のスコット・ブリマーさん。ブリマーブルーイングのビールを「日常のさまざまなシーンで楽しめるようにしたい」「心の和む、家族のような身近な存在でありたい」と考えている

「シエラネバダにいたこともあり、『なぜラインアップにIPAを入れないのか』とよく聞かれます。実際2011年頃は『ダブルIPA』が流行していたこともあって、創業時にホップをガンガンに効かせたものが登場するだろうという飲み手の期待や前評判が、かなりあったようです(笑)。

IPAはホップの香りも苦味もとても魅力的ですが、スコット自身が『自分は何杯も飲めない』という理由で定番にはしていません。彼が『何杯も飲みたい』と思うのは、シンプルに、丁寧につくったクラシカルなビール。職人としても会社全体としても、そのことを何よりも大切にしています」(佳子さん)。

たとえばブリマーブルーイングのペールエールは、シエラネバダ ブリューイングが設立された1980年代にアメリカでつくられていたペールエールを念頭に置いたという。ペール麦芽とカラメル麦芽による柔らかな甘味に、アメリカンホップが醸す柑橘系の香りと苦味がバランス良く調和する。クラフトビールシーンがドラスティックに変化する現在においても、家に居ながらにして“アメリカンクラシックビール”が楽しめる私たちは、なんと幸福なのだろう。

スコット・ブリマーさんがペールエールに合わせたいフード

アメリカンサイズのビッグチーズバーガーとフレンチフライと合わせるのが大好物です。和食でしたら、とんかつやチキンカツと一緒に召し上がってください。

ブリマーブルーイングをDREAMBEERで購入

ペールエール
ポーター
ゴールデンエール