気鋭のブルワーが、いま取り組んでいること
~ VECTOR BREWING ~
ビール王国47号より転載
規模の異なる2か所の醸造所で効率化と品質課題解決に臨む
クラフトビール好きな方にはおなじみの「猫」をモチーフにしたラベルで人気があるベクターブルーイング。現在、東京と埼玉の2か所の醸造所でビールを製造。製造規模が大幅にアップした新醸造所設置で何が変わったのか、ヘッドブルワーの木水(きみず)朋也さんにお話しを伺った。

待望の醸造所新設で製造規模拡大
ベクターブルーイングは、飲食事業を中心に営むライナ株式会社(本社 東京都台東区)が、新宿にある自社の飲食店内でクラフトビール造りを始めたことに端を発する。
ビールの生産量は着実に増加し、新宿の醸造量だけでは賄うことが難しくなったため、2017年に2か所目の醸造所を台東区の浅草橋に設置、さらに2023年4月に3か所目の醸造所を埼玉県大里郡寄居町に新設して、製造規模を拡大してきた。
醸造所のすぐ横には荒川が流れ、周囲はのどかな景色が広がる場所だが、日本一暑い街として知られる熊谷にも近く、夏は非常に暑く、冬はとても寒い場所だとか。
寄居の醸造所として選んだ場所は、元々、地域密着型プロレスの試合会場があった場所で、プロレス団体の移転に伴い空いた施設をブルワリーに転用。天井高が非常に高いので大型のタンクも余裕で設置できる建物だ。床のモルタルは、強度強化と床面を平にするためタンク搬入前に全面の打ち直しを実施。床面は、自分たちの手作業で防水塗料を3回くらい塗り重ねている。塗ってからすでに2年が経過しているので、今年の年末から塗り直しを始める予定。
現在の設備は、大型の麦芽粉砕機と麦芽粉砕機からオーガー(スクリューコンベア)を通じて直接麦芽を投入することができる4㎘の仕込みタンクを擁するブリューハウスのほか、4㎘の発酵タンクと貯酒タンクがそれぞれ4本ずつ設置されている。1回の仕込みが4㎘だと、麦芽使用量は約1トン。麦芽粉砕機に麦芽を投入するのも一苦労だ。
現在の設備でフル稼働すると、浅草橋醸造所の約4倍の製造が可能に。




役割分担で効率的な運営を実現
小規模醸造設備でビールを造っていた新宿の醸造所は、浅草橋と寄居に業務移管する形で2025年の上期をもって閉鎖。新宿で使用していた300リットルのタンクは、少量でのOEM生産委託に活用するため、浅草橋の醸造所に移設している。
浅草橋の醸造所は、東京近郊の飲食店からの樽詰めビールの注文にこたえるため、樽製品の製造を担当。都心に近い場所にあるため、配送拠点としても重要な場所として機能している。
一方、寄居醸造所は、「基本的に定番ビールの製造を行い、缶と瓶の生産を主に担当している。大型のカンニングマシーンの設置により、1時間で約400本の缶にビールを充填することが可能になり、以前に比べ生産性が大幅に向上している。缶と瓶の製造量を比較するとほとんどが缶で製造されているが、300リットル程の少量の委託製造や、一部商品のODMなどでは瓶でも対応ができます。」と木水さん。
寄居醸造所で充填された製品は、摂氏2度に設定された醸造所内の冷蔵庫で静置され出荷を待っている。
立地環境と規模の異なる2か所の醸造所の特徴を生かし、それぞれの役割を明確にして効率的な運営を行い、成果を着実に上げている。



品質向上の課題も大きく改善
寄居醸造所では、ビールの充填で一番の課題となる溶存酸素の問題解決のため、DO測定器(溶存酸素測定器)を設置。DO値の測定の単位はppb。1 ppb は10億分の1を示す単位だが、このごくごく微量の酸素の含有でもビールが酸化してしまうので、実際の現場では、最大限の対策と対応を行っている。ビールを缶などの容器に充填する際には、木水さんによる厳しいチェックが行われ、高品質な製品製造に日夜取り組んでいる。
現在、缶へのビール充填後のDO値は50ppb 以下をクリアし、賞味期限も要冷蔵で180日に。この数値は、浅草橋醸造所で手詰め充填していた時に比べると、DO値、賞味期限ともに改善しているとのこと。さらに、貯酒タンク内の酸素除去問題については、「貯酒タンクにビールを貯蔵する際に、まず、タンク内を90~100度のお湯で満水にし、そこに二酸化炭素を送りこみお湯を抜きとる工程を加えています。二酸化炭素が入ってきた分だけお湯がタンク外に出ていくため、タンク内にお湯がなくなった時には、タンク内は二酸化炭素のみが入っている状態に。抜き取ったお湯は、ホットリカータンクに戻すため、無駄なく循環、再利用。この工程を経ることでも、DO値を下げる対策につながっています。」と木水さん。
「また、寄居醸造所では、貯酒タンクが大きくなったため、タンク1本分全部を一度に缶や樽に充填することは基本的になくなり、現在は、需要を予測して必要量を見極めてビールをタンクから缶や樽に充填することにしています。ただし、ヘイジーIPAなどは、味わいが変わりやすいので、寄居よりタンクが小さい浅草橋で製造し出荷しています。」とも。
醸造所の規模が拡大して設備も充実し、より高品質なビール造りに注力しているヘッドブルワー木水さんの瞳は輝いていた。



国内醸造家になるための夢の支援も
ベクターブルーイングのもう一つの注目すべき取組みは、クラフトビール事業を始めたい方や、ブルワーになりたい人に向けてのコンサルティングもパッケージ化して対応していること。ビール製造免許の取得支援や、ベクターブルーイングでの実体験を通した醸造研修、ビール醸造設備の導入や設置などにも柔軟に対応し、各地に多くの人材を送りだしている。
VECTOR BREWING
寄居醸造所 埼玉県大里郡寄居町桜沢414
浅草橋醸造所 東京都台東区浅草橋4-7-3
https://vectorbrewing.co.jp/
https://www.instagram.com/vectorbrewing_official/





