ローカルビールに会いにゆく
~仙南シンケンファクトリー~
「ビール王国29号」より転載
文・写真 菊池正宏
豊かな自然の中で大地の恵みと共に
宮城県南部に位置する角田市は、なだらかな山に囲まれた盆地の中心にあり、南北に阿武隈川が流れる。仙台から東北本線と阿武隈急行線を乗り継いで向かう車窓からは、のどかな田園風景がどこまでも広がる。JAみやぎ仙南が運営する「仙南シンケンファクトリー」の「仙南クラフトビール」は、そんな豊かな自然の中で造られている。
創業当初は併設するビアレストランでの提供がほとんどだったが、現在の醸造長、岡恭平さんが入社すると積極的に外販を仕掛け、市内の飲食店はもちろんのこと、県外でも知られるようになった。岡さんはドイツの伝統的な製法で造られていたピルスナー、ヴァイツェン、スタウトを、より味わいのあるビールに向上させることに努めると同時に、新商品の開発にも精力的に取り組んだ。その結果、「インターナショナル・ビアカップ」で毎年のように受賞を重ね、昨年はスタウトで金賞を獲得した。飽くなき情熱で「自分がうまいと思えるビール」を追求し続けている。
地域の旬の農畜産物を使った料理をビールと共に味わえるのはJAが運営するレストランならでは。ビールとの相性は言うまでもないが、ここは地元の米、ササニシキを使って開発した「ササニシキIPA」とのペアリングを推したい。ホップの苦味と柑橘系の香りの中にほのかな甘みが顔を出し、肉や野菜の旨味とマッチする。
角田市といえば、昨年10月の台風19号による阿武隈川氾濫が記憶に新しい。氾濫した川の水は隣接するソーセージ工場まで押し寄せたが、ビール工場の手前で止まった。被災した地元の人たちがビールを楽しむまでには長い時間を要したが、被災直後から首都圏を中心に応援消費の注文が寄せられたという。
飲んで応援したいがコロナ禍で難しいと思っている方は、ここで醸造し、同じく被災した宮城県丸森町の地域商社が販売する「丸森ロケット」をおすすめしたい。原料に角田産のモルトと丸森産の米を使ったブリュットIPAで、ロケットにつかまり宇宙を目指す猫のラベルが目を引く。もし宇宙にビールを一本持っていくのなら、大地の恵みをボトルに詰め込んだこんなビールがいいだろう。
仙南シンケンファクトリー
【住所】
宮城県角田市角田字流197-4 ☎ 0224-61-1150
【営業時間】
11:00 ~ 14:30(L.O 14:00)
17:00 ~ 21:00(完全予約制、L.O 20:30)
【定休日】
毎週水曜日・木曜日
【アクセス】
鉄道/阿武隈急行線 角田駅 徒歩5 分
車/東北自動車道 白石IC より35 分、仙台東部道路 山元IC より28 分