ローカルビールに会いにゆく
~仙南シンケンファクトリー~

ビール王国29号」より転載

文・写真 菊池正宏

豊かな自然の中で大地の恵みと共に

宮城県南部に位置する角田市は、なだらかな山に囲まれた盆地の中心にあり、南北に阿武隈川が流れる。仙台から東北本線と阿武隈急行線を乗り継いで向かう車窓からは、のどかな田園風景がどこまでも広がる。JAみやぎ仙南が運営する「仙南シンケンファクトリー」の「仙南クラフトビール」は、そんな豊かな自然の中で造られている。

仙台から角田へ向かう車窓からの風景。取材時期は9月上旬で、間もなく訪れる収穫の秋に心が躍った。

 創業当初は併設するビアレストランでの提供がほとんどだったが、現在の醸造長、岡恭平さんが入社すると積極的に外販を仕掛け、市内の飲食店はもちろんのこと、県外でも知られるようになった。岡さんはドイツの伝統的な製法で造られていたピルスナー、ヴァイツェン、スタウトを、より味わいのあるビールに向上させることに努めると同時に、新商品の開発にも精力的に取り組んだ。その結果、「インターナショナル・ビアカップ」で毎年のように受賞を重ね、昨年はスタウトで金賞を獲得した。飽くなき情熱で「自分がうまいと思えるビール」を追求し続けている。

醸造長の岡さん。大学で農学を学び、みそ製造会社を経て、ビール好きが高じて仙南シンケンファクトリーに転職。
精力的に商品開発と売り込みを行い、年間15kl 程度だった生産量を60klまで拡大させた。

 地域の旬の農畜産物を使った料理をビールと共に味わえるのはJAが運営するレストランならでは。ビールとの相性は言うまでもないが、ここは地元の米、ササニシキを使って開発した「ササニシキIPA」とのペアリングを推したい。ホップの苦味と柑橘系の香りの中にほのかな甘みが顔を出し、肉や野菜の旨味とマッチする。

ビール工房に併設するビアレストラン「ドイチェスハウス」。
JAみやぎ仙南管内9市町で生産される農産物や畜産物を使った料理と造りたてのビールが味わえる。
レストランからは併設するビール工房の釜やタンクが窓越しに見える、他と比べてアキが狭いかなと思いました。

ウインナーと厚切りハム、ポテトやサラダを盛り付けた「シンケンプレート」(左手前)。
宮城県蔵王町のブランド豚を使った「ジャパンX ポークロースのソテー」(左奥)。
ビールは左からササニシキIPA、スタウト(右手前)。

ビール工房とレストランが入る仙南シンケンファクトリーの「ドイチェスハウス棟」。
ドイツ語でハムを表す「シンケン」の名の通り、ハム・ソーセージ工場も敷地内にある。

 角田市といえば、昨年10月の台風19号による阿武隈川氾濫が記憶に新しい。氾濫した川の水は隣接するソーセージ工場まで押し寄せたが、ビール工場の手前で止まった。被災した地元の人たちがビールを楽しむまでには長い時間を要したが、被災直後から首都圏を中心に応援消費の注文が寄せられたという。

 飲んで応援したいがコロナ禍で難しいと思っている方は、ここで醸造し、同じく被災した宮城県丸森町の地域商社が販売する「丸森ロケット」をおすすめしたい。原料に角田産のモルトと丸森産の米を使ったブリュットIPAで、ロケットにつかまり宇宙を目指す猫のラベルが目を引く。もし宇宙にビールを一本持っていくのなら、大地の恵みをボトルに詰め込んだこんなビールがいいだろう。

角田市のシンボル的存在、JAXA宇宙センターのロケットから名付けられた「丸森ロケット」。
丸森町の名物である「猫神」をモチーフにした猫がロケットにつかまり宇宙を目指す様子をラベルにデザイン。

仙南シンケンファクトリー

【住所】
宮城県角田市角田字流197-4 ☎ 0224-61-1150

【営業時間】
11:00 ~ 14:30(L.O 14:00)
17:00 ~ 21:00(完全予約制、L.O 20:30)

【定休日】
毎週水曜日・木曜日

【アクセス】
鉄道/阿武隈急行線 角田駅 徒歩5 分
車/東北自動車道 白石IC より35 分、仙台東部道路 山元IC より28 分