フラッグシップビールができるまで vol.7
~遠野ZUMONA~
現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。ブルワリーの方々に、DREAMBEERで扱っているビールの開発秘話を伺います。第7回目は、「遠野麦酒 ZUMONA」の「TONO BEER C58 239 GOLDEN ALE」です。
遠野麦酒 ZUMONA
「遠野麦酒 ZUMONA」(以下、ズモナ)は、全国有数のホップ栽培地である岩手県遠野市にあるブルワリーだ。遠野唯一の酒蔵である上閉伊酒造株式会社が運営しており、1999年4月からビール醸造を開始した。「ズモナ」とは、遠野地方の方言で「〜(だ)そうな」という伝聞の意味合いを表す。「遠野にうまい地ビールがあるそうな」と語り伝えられてほしいという願いを込めて名付けられた。
ズモナのビールは、地元の人から親しみを込めて「遠野小富士」と呼ばれる六甲牛山の伏流水と、遠野産のホップ「IBUKI」を使っているのが大きな特徴だ。ホップの収穫季節になると、摘みたてのホップを使った「フレッシュホップビール」が楽しめるのもうれしい。
「遠野でのホップ栽培は半世紀以上続いていますが、農家さんの高齢化によってホップ産業は厳しい局面に立たされています。遠野産のホップを使ったビールの存在や地域の魅力を発信し続けることで、ホップ農家の未来に繋げていきたいと考えています」と、同ブルワリーでヘッドブルワーを務める坪井大亮さんは語る。
「TONO BEER C58 239 GOLDEN ALE」が生まれるまで
坪井さんがズモナで醸造を始めたのは2005年から。定番の「ヴァイツェン」「アルト」「ゴールデンピルスナー」を中心に、麦芽・ホップ100%のビールをつくり続けてきた。
DREAMBEERでも提供する「TONO BEER C58 239 GOLDEN ALE」(以下、 GOLDEN ALE)をつくったのは2019年。JR東日本盛岡支社より「大槌復興米を使ったビールをつくってほしい」という依頼がきっかけだ。花巻市のJR花巻駅と釜石市のJR釜石駅を結ぶ「釜石線」を盛り上げ、釜石線沿線、三陸沿線地域の素材を使った商品を通じて地域の活性化を目指す「いわて食材発信プロジェクト」の一環だった。
「大槌復興米」とは、東日本大震災の発生から8ヶ月が経過した2011年11月、岩手県大槌町の民家跡で自然に芽吹き稲穂をつけているのが見つかった米のことだ。
「この企画を聞いた時、大槌復興米が田んぼで黄金色に実り風に揺れている姿が思い浮かび、ビアスタイルを『ゴールデンエール』にしようと決めました」(坪井さん)
しかし依頼を受けた当時、坪井さんは副原料を使ったビールづくりの経験を持っていなかった。そのため、「ササニシキIPA」などをつくる「仙南クラフトビール」をはじめ、 米を生かしたビールづくりの実績を持つブルワリーにノウハウを教えてもらったという。
「お米を入れすぎると発酵に影響が出るので、全体の麦芽量に対する米の割合が難しくて。結局1割くらいに落ち着きました。ちなみに最初のバッチは日本酒の大吟醸と同じ精米歩合60%にしていたので、かなり贅沢なビールになった」と坪井さんは笑う。
TONO BEER C58 239 GOLDEN ALEの名前の由来となった「C58 239」は、釜石線のSL銀河(C58形蒸気機関車239号機)にちなむ。初めてできたGOLDEN ALEは、東日本大震災が起こった日付と同じ3月11日に発売。地元でビールを扱う販売店から「90年代の地ビールブームを思い起こさせる」と言わしめたほどの大きな反響を得られた。
当初はモルト感やボディが想定よりも強めに仕上がったため、クラフトビールに慣れ親しんでいない人も多数購入することを踏まえ、レシピを調整。精米歩合を変えたり、苦味を抑えたりしてホップの香りをより際立たせた。
「IBUKIは、季節やモルトの配合、酵母との組み合わせ、添加タイミングなど様々な要因で、柑橘だったりお茶のような香りがしたりといろんな表情を見せてくれるんです。これからも、遠野産のホップの魅力をより多くの人に伝えられるようなビールをつくっていきたいですね」(坪井さん)
坪井大亮さんがTONO BEER C58 239 GOLDEN ALEに合わせたいフード
青菜のおひたしのように、あっさりとした料理。ビールからは米の甘味を感じることができるので、お寿司もおすすめです。ボタンエビの握りなんてすごくいいんじゃないかと思います。