日本のブルワリー探訪 vol.01
~暁ブルワリー~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに渡り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第1回目は、岩手県八幡平(はちまんたい)市にブルワリーを構える「暁ブルワリー」(株式会社太極舎)です。

暁ブルワリー

2020年9月、岩手県の北西部、秋田県との県境に位置する八幡平市に「暁ブルワリー 八幡平ファクトリー」は誕生した。「暁ブルワリー」は、この八幡平ファクトリーを中心としてオーガニックビールを醸造するブルワリーだ。

定番は「ドラゴンアイ[スカイ] オーガニックピルスナー」「同[マグマ] オーガニックIPL」「同 [サン]オーガニックゴールデンエール」「同[スノー] オーガニックペールエール」の4種類。「ドラゴンアイ」とは、八幡平山頂にある鏡沼の雪面が日光により溶けて押し上げられ、龍の眼のように見える現象のことを指す。毎年5月末から6月初めにかけての約2週間だけに限られる貴重な光景だ。

暁ブルワリーを運営するのは、岡部いずみさんが代表を務める株式会社太極舎。東京都渋谷区に拠点を構え、デザインとブランディングを中心に日本の地域文化を支える活動を行っている。その中でビールに注目したのは、書籍『ビールの力』(青井博幸 著/洋泉社 刊)に触れたことがきっかけだ。ヨーロッパやアメリカにおけるビールの多様性や、日本で「地ビール」をつくり始めた著者の体験などを読み、「ビールと地方創生をつなげることができるのでは」と考えた。

そうして2004年9月、東京駅八重洲北口地下1階にある黒塀横丁に「barBAR Tokyo(バーバー東京)」をオープン。日本のクラフトビールと地域の食を扱う、近隣では初めてできたクラフトビール専門店だった。

バーバー東京は黒塀横丁リニューアル工事に伴い2021年8月に閉店したが、2016年には自分たちでもビールをつくろうと、「暁ブルワリー」を当時の太極舎のオフィスにほど近い東京世田谷・経堂で立ち上げている。2018年12月にはブルワリーのフラッグシップ第1号店として「暁タップス 銀座」を、翌年4月には「暁タップス 芝大門《ビアロバタ》」をオープンした。

東北の食の魅力を発信するオーガニックレストランとして、「東北ロースト」がコンセプトの1号店「暁タップス 銀座」(左)。東北の食の魅力を発信する店として、三陸の牡蠣や魚介、東北の畜産品を扱う。2号店の「暁タップス 芝大門《ビアロバタ》」は「ビール養生」がコンセプトで、ビールに合わせた養生料理を提供する

「バーバー東京の運営で国内のクラフトビールを知っていただき、地域のブルワリーにも喜んでいただけましたし、『国内産クラフトビールの魅力を知ってもらう』という目的は完遂できたと思います。次のステップとして、“自分たちが飲みたいビールの味”を追求したくなりました」と岡部さんはブルワリー設立のきっかけを振り返る。

国内では2010年前後よりアメリカのウエストコーストIPAの影響が大きくなっており、国産クラフトビールもアメリカンホップの特徴を生かしたものが主流になっていった。そんな中にあって、暁ブルワリーが目指したのは「『味噌汁』のポジションのようなビール」だ。

「麦芽の旨味は、いわば『出汁』のようなもの。毎日食べるご飯、お魚がメインのおかずなどにも合う、お味噌汁のように毎日飲みたいと思えるビールをつくりたいと思いました」(岡部さん)。

穏やかな旨味の中にホップのアロマやフレーバーが奥ゆかしく顔をのぞかせる。ともすればぼんやりした印象になりがちなところを、さっぱりとした切れ味が次の一口へといざなう──。醸造当初から日本の食とのペアリングを見据えていた。

暁ブルワリー 八幡平ファクトリーの醸造施設は、2500ℓの仕込釜と、5000ℓの発酵タンク4基、2500ℓが2基。さらに5000ℓと2500ℓの貯蔵タンクを備える

ビジネスで地域の役に立ちたい

暁ブルワリーが八幡平とのゆかりを得たのは、東日本大震災がきっかけだ。太極舎が復興支援のために立ち上げた「NPO法人ソウルオブ東北」による、被災地の復興・高付加価値を伴う創生を目的とした支援活動の中で訪れた地域のひとつだった。

「特に三陸の被害は甚大でした。主に岩手県で支援活動を行っていましたが、振り返ってみると地域に寄り添えはしたものの、新しい価値を生み出したとは言い切れないことが心残りでした。

もっと地域に貢献したいと考えた時に思い浮かんだのが、ビールづくりです。言葉やデザインを中心とした活動だけで地域に新しい価値を付加するのは難しい。腹をくくってビジネスを始めてこそ、地域の役に立てる可能性があるのではないかと思いました」(岡部さん)。

ビールづくりができる土地を東北で探すのならば、天然水が豊富な場所がいいと岡部さんは考えた。「同じ麦のお酒であるウイスキーが水にこだわるように、ビールでも水が醸し出す個性を大切にしたい」と候補地を探し回った中、八幡平が決め手になったのは、2つの大きな利点があったためだ。

一番大きいのは湧水群があったこと。八幡平市松尾金沢地区に点在する7つの清水「金沢清水」だ。現在、ブルワリー敷地内に引かれた湧き水は最大水量で毎時420トンを誇る。さらに八幡平は地熱エネルギーを利用するために日本初の商用地熱発電所ができた場所であり、暁ブルワリーの「自然を守りながらビールをつくりたい」という方向性ともマッチした。

「自然を守る」という考え方は、暁ブルワリーのビールが、有機農法でオーガニック認証を取得したドイツおよびアメリカ産の麦芽とホップを原材料にしていることにも現れている。特にオーガニックのホップは生産量が極めて少なく、2年後の収穫分まで予約している状態だ。2022年12月には、ビールとして日本初となる「有機JAS」を取得した。

八幡平で目指す「ジャパンビール」

現在DREAMBEERで扱っているのは、「ドラゴンアイ [スカイ] オーガニックピルスナー」「同 [サン] オーガニックゴールデンエール」と「同[マグマ] オーガニックIPL」の3種類だ。ピルスナーは白身魚の刺し身とも楽しめる澄み切ったビールで、ゴールデンエールは麦芽の軽やかな甘味と旨味が印象に残る。IPLは暁ブルワリーのラインアップで唯一ホップの苦味を効かせ、ラガー酵母を使うことでシャープな後味を実現した。

ビールづくりを担当しているのは、2021年1月に入社した中林 悠さんだ。前任者から醸造業務を引き継いで1年半ほどになる。

「飲んだ時に原材料がいいなと思える、『キレイだな』と感じられるものをつくりたい。ホップだけが強すぎる、甘味が出すぎるものは、自分の中ではキレイではありません。水のように飲めるくらいのバランスの良さが目標です」と中林さん。

醸造責任者の中林 悠さん。「暁ブルワリーのビールは比較的シンプルな味わいだからこそ、わずかでもオフフレーバーが存在すると目立ちやすく、誤魔化しがきかない」と気を引き締める

前職は大学で研究職に携わっていた経験から「ビールも研究も、欧米から大いに影響を受けている」ことを肌で感じてきた。だからこそ、今後は「ジャパンビール」をコンセプトにした“日本らしい”ビールがつくりたいという。

「繊細な日本らしさを表現するには、やはり日本の酵母を使うのが一番かなと思います。他のブルワリーも独自に酵母を採取しているところがありますが、私たちも八幡平の水や花などの自然から採った酵母を使いたいですね。今は、岩手県の清酒酵母を使ったビールづくりに挑戦しています」(中林さん)。

八幡平という環境だからこそ創り上げられるビールは、キレイでバランスのよい暁ブルワリーのビールにどんな表現で“八幡平らしさ”を感じさせてくれるだろうか。楽しみでならない。

中林 悠さんが
ドラゴンアイ [サン] オーガニックゴールデンエールに合わせたいフード

「安比まいたけ」のフリットや炭火焼き。八幡平で採れる舞茸で、肉厚で風味も旨味が濃いのが特徴です。また、こちらで「ばっけ」と呼んでいる、ふきのとうの味噌和えとの相性もいいですね。

暁ブルワリーをDREAMBEERで購入

ドラゴンアイ [サン] オーガニックゴールデンエール

ドラゴンアイ [スカイ] オーガニックピルスナー

ドラゴンアイ [マグマ] オーガニックIPL