全国ビアパブ&タップルーム巡り
~那須高原ビール 愛の森レストラン~

ビール王国39号より転載
文:野田幾子
写真:津久井燿平

森をあえて残した清々しいおもてなし

「那須高原ビール 愛の森レストラン」は、栃木県那須郡那須町の国立公園の中にある。JR那須塩原駅からはタクシーで20分弱、黒磯駅からは7分程度。木々が生い茂る森の中にある佇まいから、心穏やかなで豊かな時間を過ごせるであろうことを予感させてくれる。

敷地内の森にはテラスのような場所も。こちらでは建物内のショップで購入したビールを楽しめる

敷地の中で楽しむ森林浴

「那須高原ビール 愛の森レストラン」(以下、那須高原ビール)は、那須連山の麓、国立公園区域にあるブルワリーレストランだ。オリジナルビールとともに、栃木や那須産の食材を使ったイタリアンなどの洋食を提供している。
 最寄りであるJR東北本線(宇都宮線)の黒磯駅から那須街道をタクシーやバスで那須高原方面(北西)に向かうと、ブルワリーのロゴが入った大きな看板が左手に見えてくる。それが入り口の目印だ。
 敷地内へ足を踏み入れると、森の中と見まごうほどの木々が林立する庭が広がっていた。みずみずしく茂る樹木の葉っぱや木漏れ日の美しさ、そして空気の清々しさが、目にも心にも深く印象に残る。
 体感温度も都内とは5度くらい異なるようで、ひんやりして気持ちがいい。鳥たちが元気にさえずる声に耳を傾けながら胸いっぱいに空気を吸い込むと、青々とした香りが身体中を満たしていく。まさか、幹線道路沿いで森林浴体験ができるとは。
「那須街道を挟んだ両脇の土地50mが国立公園の指定区域です。那須高原ビールの建設前はさらに深い森でした。『道路からもっと建物が見えるようにしては』と助言もされたのですが、“森の中にあるブルワリー”にしたくて、できるだけ木を伐採しないように工事したんです」
 そう説明してくれたのは、那須高原ビール株式会社の創立者、およびチーフビアプロデューサーも務める小山田孝司さんだ。
 エントランスに近づいていくと、彫刻が置かれていたり苔や踏み石を配した小径などもあった。訪れる人をもてなそうと手間暇かけられていることがわかり、さらにうれしくなる。

窓からも森が眺められるレストラン。入り口から中庭にかけて、世界に名高い芸術家、菅木志雄氏の手によるオブジェ「三間の泉」が配置されている
定番が100mlずつグラスに入った「お試しセット」

「基本に忠実に」が信条

 小山田さんは、もともと代々続く家具屋を継いで事業を営んでいた方だ。1994年の酒税法改正を受け、ビール造りにチャレンジしようと決心して渡欧。ドイツとハンガリーで醸造士研修を受けたスタッフと共に50ヶ所のブルワリーを飲み歩いた。帰国後はエチゴビールでも醸造士を務めていたガーナ出身のバワ・デムヤコさんにも指導を受けて醸造をスタート。その後、那須高原ビールとして1996年の秋オープンしている。
 定番は、那須深山の雪解け水で仕込んだミュンヘンラガーの「愛」、「ヴァイツェン」、「イングリッシュエール」、「スコティッシュエール」、「スタウト」の5種類。レストランではこれらに加えて季節限定ビールを味わうことができる。
 また、同ブルワリーを代表する存在といえば、1999年9月9日から発売を開始したヴィンテージビール「ナインテイルドフォックス」だろう。最初から長期熟成を目的にしたビールは、当時世界を見渡しても珍しい存在だった。レストランでは、前年に醸造したナインテイルドフォックスを樽生で提供している。

「 ナインテイルドフォックス」の名は、那須地方に伝わる「九尾の狐伝説」がモチーフ。ラベルデザインも小山田さんが手掛けた。

 ビール造りで大切にしていることを尋ねると、「基本に忠実であること」だと小山田さんは答えた。特にタンク洗浄は基本中の基本であり、原材料の保管、醸造中の温度管理にも細心の注意を払う。「皆さんに楽しんでもらいたいと想いを込めたビールは、また一味違うと思うんですよ」。
 この言葉がビールのみならず細部まで行き渡っていることは、現地を訪れてみれば十分に感じとってもらえることだろう。

フォカッチャと「愛」の組み合わせ。フォカッチャで使っている小麦は小山田さんが携わる農業法人で栽培されたもの
小山田孝司さん。現在は娘さんも共にビール事業を営む

那須高原ビール 愛の森レストラン

栃木県那須郡那須町大字高久甲3986
☎0287-62-8958
営/ 11:00 ~ 19:00
休/水
http://www.nasukohgenbeer.co.jp/restaurant.html

クラフトビアバーが舞台になった2018年のドラマ「獣になれない私たち」(新垣結衣・松田龍平主演)最終回のロケ地として登場。翌日から来訪者と注文が殺到したという。