日本のブルワリー探訪 vol.10
~四万温泉エールファクトリー~
現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに亘り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第10回は、群馬県吾妻郡中之条町の「四万温泉エールファクトリー」です。
四万温泉の清らかな水でビールを造る、四万温泉エールファクトリー
群馬県に、周りを山に囲まれた知る人ぞ知る小さな温泉場がある。
「四万(しま)温泉」。
320年以上前に開湯し、その名は「四万の病を癒す霊泉」と言われてきたことに由来する。
その地で長年地酒の販売をしてきた「わしの屋酒店」が、2011年に立ち上げたのが「四万温泉エールファクトリー」だ。
ご主人の山田博史さんは言う。
「元々、四万温泉には酒蔵がないことから、できるだけ地理的に近い場所で造られている群馬の地酒を販売していました。それでも、観光にいらっしゃるお客様から『四万温泉の地酒はありますか?』と聞かれることが多かったため、『ならば自分が造ってみよう』と思い立ちました」。
山間地にある四万温泉は平らな土地が少なく農産物がほとんどない、山と川と温泉しかない、ゆえにずっと特産品と呼べるものがなかったと山田さん。
「けれどもある時、四万温泉はとてもおいしい水に恵まれていることに気付いたのです。酒やビールの中身はほとんどが水。きっとおいしいものができるに違いない。ぜひ特産品にしたいとやる気になりました」
あえて仕込み水の水質調整は行っていないという。その方が四万温泉で造るビールならではの味わいを楽しんで貰えるからだ。「私的には、四万温泉エールは『クラフトビール』というよりも『地ビール』と呼ぶのが相応しいと考えています。この地でしか出合えない味わいづくりを目標にしています」
試行錯誤を繰り返し、自分自身が大好きな味と言えるビール造りを
ブルワリー開業のコンサルタントを行う神奈川県川崎市の「クラフトビア ムーンライト」で醸造を学んでからは、ひとり、四万温泉でビール造りを研究し続けた。
「今はブルワー仲間ができ、いろいろと尋ねることができるようになりましたが、開業当時はつながりがなく、本やインターネットで醸造に関する知識を得、実践に移し、ブルワーとしてのスキルアップに努めていました」
クラフトビールのムーブメントを起こしたアメリカの数々のブルワリーのサイトにもアクセスし、進化し続ける醸造技術に注目した。
「アメリカのホームブルワーの論文も時々読んでいます。彼らは先進的でチャレンジ精神に溢れており、興味深いのです」
自身が理想とするホップ由来の香りを得るために、たとえばそこで学んだ「ファーストウォートホッピング(麦汁の煮沸前段階でホップを加える手法。麦汁とホップが触れ合う時間が長くなる)」を試してみたり、ホップを投入する麦汁の温度帯も繊細に変えてみながら香りをコントロールしてみたり。
「2022年に1000Lの醸造設備を新たに導入し、製造能力を拡大したことで、仕込み回数を増やせるようになったので、今後はよりたくさんの経験を積んでいくことができます。お客様に飲んでいただくからには、自分自身が大好きな味ですと言えるビールを造りたい。いっそう精進していきます」
地ビールを目的に四万温泉に足を運んで貰えるように
「わしの屋酒店」ではタップルームを設け、常時8銘柄の樽生を飲めるようにしている。
「大変ご好評をいただいており、お客様が目の前で、『おいしい!』と嬉しい感想を言ってくださることが、すごく張り合いになっています」
山田さんには、ビール造りを始める前からずっと考えていたことがある。
温泉場の主役は旅館。観光客は、「わしの屋酒店」にはたまたまお酒が欲しくなったから立ち寄ってくださっているだけ。しかしいつかは、「わしの屋酒店」を目的に、四万温泉に足を運んで貰えるようになりたい。
「先日のことです。タップルームでビールを楽しんでいるお客様から、このような声をいただきました。『いつもはもっと離れた旅館に泊まるのだけれど、今日はこのビールを飲むために目の前の旅館に泊まりました!』。ついに夢が叶ったと、本当に嬉しかったです」
生まれ育った四万温泉の発展に貢献したいとの気持ちがいつもある。
四万温泉内に新しくタップルームをつくりたいと活動を始めたのも、それが理由だ。
「DREAMBEERさんを通して四万温泉エールを知ってくれたお客様が、もし訪ねてきてくださったらとても幸せですし、大歓迎したいです」
今後は、四万温泉のある中之条町産や群馬県産の柚子や米などにも注目し、様々な農作物を副原料として活かすことにも力を入れていきたいとのこと。
ビール造りが楽しくて仕方がないという山田さんの活躍を応援したい。
山田さんが「四万温泉エール 摩耶姫」「四万温泉エール おう穴」と合わせたいフード
ホップの香りは控えめの、やや甘さを感じるコクのある味わいに仕上げている「摩耶姫(ペールエール)」は、肉じゃがや焼鳥(タレ)と合わせるのがおすすめです。
カラメルモルト由来の深いコクや酵母由来のフルーティーな香りが特徴的な「おう穴(アンバーエール)は、肉料理や餃子、中華料理との相性がよいです。
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◆ 摩耶姫
◆ おう穴