いまさら聞けない!ピルスナーとIPAの相談室
〜IPA編〜
ビール王国 17号より転載
文:西林達磨 イラスト:タケウチアツシ
ピルスナーもIPAもおいしいと思うけど、イマイチ本当のところがよく分からない。そこで急遽設立された「ビールの相談室」。ここに来れば、どんなビールのモヤモヤもすっきり解消。次の方、どうぞ!
IPA編
Q1 なぜIPAは流行っているの?
その分かりやすく個性的な味わいがビールの既成概念を打ち破ったからだと考える。18〜19世紀にイギリスで流行したIPAも、20世紀初頭にはピルスナーの台頭により駆逐されてしまう。その後もスコットランドからアメリカに移住したピーター・バランタインがIPAを造り続けていたが、時代が早過ぎたのかブームにはならず、1970年代後半からアメリカ西海岸で始まるクラフトビールの胎動を待つことになる。アンカー社の「リバティーエール」、Yakima Brewing and Malting社の「BertGrant’s India Pale Ale」などの商品が登場し、苦い味わいとカスケードなどに代表されるアメリカンホップの柑橘系の香りを活かしたビールが世間を驚かすと、アメリカンIPAはクラフトビールの代名詞的な存在として輝き出す。ピルスナーに比べてホップの個性そのものがビールのキャラクターに反映された味わいは、アメリカから世界中に飛び火。スコットランドではブリュードッグの「パンクIPA」がパッションフルーツやマンゴーのような鮮烈な香りで、ビールに興味のない人をも振り向かせた。IPAはまさにクラフトビールの起爆剤であった。そして、現在もIPA帝国の版図を拡大するべくブラックIPAやニューイングランドスタイルIPAなどの新たなスタイルを生み出しており、進化が続いていることも人気の理由のひとつだ。
Q2 「IPA」って響きが良い名前は誰がつけたの?
IPAの名付け親についての明確な記録は残っていない。しかし、19世紀当時の新聞広告が残っており、この名前がいつ頃に誕生したのかを伺い知ることはできる。その広告は、1829年のオーストラリアの新聞。とある店の広告で、「East India Pale Ale」が売り出されていることを示したものだ。当時のイギリスは東インド会社をインドに設立し、さまざまな商品の輸出入を行っていた。それで名称の頭には「East」の文字が付くのだと思われる。
Q3 どうしてホップを大量に入れるの?
時代によってその目的は変わってきた。IPA誕生の頃にはまだ冷蔵技術などの保存技術が発達しておらず、ビールをインドのような遠い場所に運ぶことは非常に難しかった。そこでホップの持つ抗菌効果を最大限利用するために、ビールに大量にホップを投入した。ホップを入れると長持ち、という目的だったのが18〜19世紀のIPAだ。時代は下り、20世紀後半のクラフトビールの時代には、保存技術が発達したためもはやホップの抗菌効果はさほど重要ではない。いまの時代にホップを大量に入れるのは、ホッピーな香りや味わいを楽しむためだ。必要性から味の表現へと変わったのである。
Q4 IPAの苦さの限界ってあるの?
理論上は苦味成分をどんどん高めることはできる。苦味を数値で表す方法として、「IBU(国際苦味単位)」というものがある。数値が高いほど苦味成分がより多いというものだ。高IBUのビールは世界で更新レースが続いており、2017年11月現在ではIBU2600超のビールが記録されている。カナダのフライングモンキー醸造所の「アルファフォニケーション」はIBU2500のビールで、限定醸造ながらボトルで流通したので、幸運な人は飲んだことがあるかもしれない。通常のピルスナーがIBU10〜20程度なので、その数値はなんと100倍以上。けれど、苦い味として感じるかどうかは別。味覚は人それぞれであるが、感じられる苦味の上限はだいたいIBU100〜1 2 0程度までと言われている。それにしても、IBU2500とはどんなビールなのだろう。激辛ラーメンのように、香りをかいだだけでむせるようなビールなのだろうか。興味のある人はぜひ探求してほしい。
Q5 あまり苦くないIPAもあるけど、私の舌がおかしいの?
いいえ、大丈夫。苦味成分が多いIPAでも、麦芽の甘味などとバランスを取ることで、それほど苦く感じないビールはある。反対に、甘味が少ないIPAでは低IBUでもシャープに苦味を感じるはずだ。うまいIPAというのは、甘味と苦味がバランスよく感じられるものだと考える。ただただ苦いビールは、インパクトは強烈であっても、次もまた飲む気にはならないものだ。IPAを味わうときには、苦味だけではなく甘味にも注意して飲んでみよう。
Q6 苦いビールって体に良さそう。実際のところどうなの?
鋭い! 苦味の成分であるイソアルファ酸にアルツハイマー病を予防してくれる働きがあることが2016年に発表されている(詳細は次号でレポート)。イソアルファ酸が、脳内の老廃物を除去してくれる免疫細胞の働きを活性化するというもの。ビール好きには嬉しいニュースである。また、ホップ由来の香りにもリラックス効果があることが2005年に発表されている。ホップ精油に含まれるリナロールやゲラニオールという成分を嗅ぐと、脳波がよりリラックス状態になるというもの。なんだか疲れたな、というときにはIPAの香りを入念に感じてみるのもよいかもしれない。