テイスティングについて
~前編~

ビール王国27号より転載

文:田上大祐
田上大祐(たのうえ だいすけ)
日本人として初めてビアソムリエワールドチャンピオンシップに出場。ワイン、チーズなどにも造詣が深い。

Tasting

冷たいビールをグビグビと飲む、のもそれはそれで格別のうまさだが、より堪能するためにも「テイスティング」を覚えていただきたい。ここでは、「外観を観る」、「香りをとる」、「味わう」、「喉ごし」という4つのアプローチを紹介しよう。

Introduction

 宅飲みをもっと楽しむためのキーワードは「テイスティング」だ。ここでは、めくるめくテイスティングの世界に誘いたい。
 そもそもテイスティングとは何のためにあるのか。
 実はテイスティングを行う目的はそれぞれの分野の人で異なっている。ブルワー、インポーター、酒販店、飲食店、ビアソムリエ、ビアジャッジ、そしてわれわれ一般の消費者、さまざまな人たちがビールの流通の要所要所で関わっている。 ブルワーはおいしいと思うビールを造るため。インポーターはおいしいビールを輸入するため、酒販店や飲食店はおいしいビールを仕入れるため、そしてそのビールの味わいを説明するため。ビアソムリエはさらにビールと料理のペアリングを提案するため。そしてビアジャッジはビールに点数を付けるため、といった具合だ。 
われわれ一般の消費者はビールを造るわけでもなく、誰かに販売するわけでもない。説明もしない。おいしい料理があればビールは進むし、点数なんて付ける必要はさらさらない。ビールをおいしいと感じられればそれで充分。なのになぜ、今ここでテイスティングを勧めるのか。
 私が思うテイスティングは、自分がもっともおいしいと感じる究極のビールにたどり着くための手段だ。みなさんにもみなさんの究極のビールを見つけてもらいたい。
 そのために、テイスティングのトレーニングを宅飲みの楽しみのひとつに加えていただきたい。
「テイスティング」と聞いてイメージするのはワインソムリエの姿ではないだろうか。ワイングラスを高々と掲げ、色を観察し、香りをかぎ、そして味わう。少し時間をおいた後、いささか難しい顔をしながら重々しくそのワインについて語りだす──。
 しかし、それは客に対するパフォーマンスが多分にあって、テイスティング自体は敷居の高いものでもなければく、特別なものでもない。
 簡単なルールさえ守れば、あとは個々の感性のままに判断すればいいのだ。
 ビールのテイスティングもワインと基本的に変わらず、①外観をみる、②香りをとる、③味わうだが、4番目として最後に「喉ごしを感じる」がある。これがワインにはない、ビールだけのルールだ。だから、ワインのテイスティングは口に含んだ後は飲まずに口から出すが、ビールは飲む。
 もちろん、口から出すビアソムリエやビアジャッジもいるが、少なくとも私は飲んで喉ごしを確認する。それは、喉ごしの良し悪しが、ビールのおいしさを大きく左右する要因とおもっているからだ。

Tasting1
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ビールは、薄い黄金から黒までのグラデーションがあるが、中にはそこから離れた赤や青といった液色もある。なぜ、それほどまでにビールの色は多岐に渡るのか? そして、その外観からは、ビールの何がわかるのか──。詳しく見ていこう。

 黄金色のビールがいつものビールの味がして、黒ビールはいつも決まって焦げた味がするように、ビールの色あいはビールの味わいを反映していて、逆にその色あいからある程度味わいを推測することができる。味わいは色あいから想像しなくても飲めば当然分かるのだが、色あいから味わいを想像するところからテイスティングは始まっているのだ。色あいから味わいを想像することで、実際に味わったときの感動がより大きくなるのだ。
 では、色あいはどのように表現すればよいのだろうか。難しい言葉を選ぶ必要はない。淡い順から、麦わら色、金色、コハク色、茶色、焦げ茶色、黒色と並ぶ。麦わら色は麦わら帽子のように淡い色あいのときに。金色は金の延べ棒の色あいに近いが金の延べ棒と違って透明感がある。コハク色はアンバーとも表現されるが、透明感のある茶褐色であり、濃いべっこう飴のような色あいだ。茶色、焦げ茶色、黒色はイメージ通りの色で問題はない。
 色あいを中心に説明してきたが外観では色あい以外に透明度や泡の性状、細かい泡か粒の大きい泡か、また泡がずっと残っているのかすぐに消えてしまう泡なのか。この辺りも余裕がでてきたら確認してもらいたい。それらもビールの特徴を反映している外観なのだ。

世界でもっとも飲まれているピルスナー。その黄金の液色、その上にこんもりと盛られた純白の泡を観ると、思わずのどがなる