いざ、クラフトビールデビュー! はじめの一歩はナニをする!?
~「グラスでビールの香り、味が変わる」は本当か?~
ビール王国44号から転載
文:清水貴久 写真:津久井耀平
ワインが赤と白、ブルゴーニューとボルドーによってグラスが変わるように、クラフトビールファンの中には、ビアスタイルによってグラスを変えて楽しむ人が増えてきた。それは、ビアスタイルごとの特徴をしっかり楽しみたいからだ。一方で「ビールはワインのように堅苦しくなく、楽しく飲みたい」という人も少なくない。どちらもごもっとも。ただ、なんの世界にも基本がある。ここでは、グラスの形状からどういう違いが起こるのか、それだけをお伝えするので、ポイントをご理解いただいた上で、あなたにピッタリのグラスを見つけていただきたい。
まず、ここでは「ガラス製のグラス」が前提であることをお断りしておく。陶器や磁器のグラスを否定するわけではないが、ビールを楽しむ上で、重要なテーマである「液色」が見えないからだ。現在、世界で最も飲まれているピルスナーは、産業革命によって、ガラス製のグラスが広く出回り始めたからこそ、誕生したビアスタイルなのである。当時の人々は、透明なグラスに注がれた、それまでのビールとは一線を画す黄金に光り輝く液色に魅了された。その結果、ガラスのイメージに通じるシャープな飲み口と相まって、一気に世界中に広まったのだ。
グラスを選ぶ際のポイントは次の3つだ。
①形状と大きさ
ビール用のグラスを大別すると、ボウルがふっくらとして脚のついているチューリップ型と、ビアパブなどで見かけることの多い、台形のパイントグラスだ。同じような形態のグラスを「タンブラー」と呼ぶこともあるが、もともとはグラスの底が平らでなく、丸まったグラスの呼称(転ぶ/ tumble)が由来となっている、という説がある。
チューリップ型は、膨らんだ部分に香りが溜まるので、レッドエールなど、ちょっとずつ飲むビールとの相性がよい。パイントグラスは、文字通り1パイント入ることに由来するが、イギリスは 約568ml、アメリカでは約473mlと大きさ(容量)が異なる。また、ノニックパイントという、上部がくびれ、持ちやすいパイントグラスもある。
②リップ(リム)
見落としがちだが、とても重要。まず厚さから。
唇をつけた際に薄すぎると人の本能として警戒する(緊張する)。ワイン、ウイスキー、ビールともに、テイスティング用のグラスは意識が集中しやすいように、総じて薄くつくられている。普段の宅飲みでは、リラックスして飲むことが多いと思うので、ある程度の厚みはあったほうがいいだろう。
目安としては、木村や松徳の「薄はり」が家庭用として使うには最も薄い部類ではないか。それ以上薄いと、取り扱いも細心の注意が必要になるので、避けたほうが無難。
形状も、ビールが口に入る量が変わるので慎重に見極めたい。
ストレートタイプは一気に入るので、ゴクゴクと飲みたいエールやセンションに向いており、テググラスのように折り返しがあると、そこが堰となり、少しずつ入ることになる。こちらは、おもに香りを楽しみたいエールやハイアルコールに適している。
③脚の長さ
こちらも、落とし穴がある。ワイングラスでビールを提供する小洒落たビアバーがあるが、ビールは基本はグビっと飲みたいので、一杯の量が最低でも200~300mlは欲しい。それをワイングラスに入れると、脚を持った際に不安定になる。そうなると、リップが薄すぎるのと同じように、人は緊張するので寛げないのだ。
以上の3点をしっかり押さえれば、きっと「あなたにピッタリのグラス」が見つかるはずだ。ぜひ、ビアライフを充実させるためにも、グラスは大切にしていただきたい。
【リップ(リム)】
唇をつけた時の感覚を大切に。また角度によって、流量が変わる(ひと口の量が変わる)ので、選ぶ際は吟味したい
【ボウル】
大きく、広ければ炭酸が抜け、アロマをたくさん感じることができる。シェープの角度が緩やかだとひと口の量が少なく、急だと一気に多くのビールが口に流れ込む
【脚】
有:持ったとき、手から体温が伝わりにくくビールが温くならない。 無:持ったとき、手から体温が伝わりビールがぬるくなりやすい
ブリティッシュパブでみかけることの多いノニックパイント。右がタンブラーの由来と言われているそこが丸く“転ぶ”グラス