白いビール、黒いビールの「それダメ!」
~黒ビール編~

ビール王国 18号から転載
文 : 西林達磨 イラスト : タケウチアツシ

こうばしい黒いビールも、フルーティーな白いビールも大好き。でも、知らず知らずのうちに、「それダメ!」な飲み方をしていないだろうか。ベテランでも勘違いしているかもしれない黒と白の楽しみ方に、ここで一気に白黒つけよう!

黒ビール編

Q1. 黒ビールって味が濃いから最後にオーダーしようかな。

A1. それ、惜しい! 最初の一杯でオーケーな黒いビールもある。黒いビールの色は、ローストした麦芽の色。なので、こうばしい香りや焦げたような風味がするのが黒いビールの一般的な特徴だ。しかし、アルコール度数が低いものであれば、比較的軽い飲み口のものもある。例えば、シュバルツというスタイルの黒ビールは、ラガー(下面発酵)のタイプなので酵母が醸し出す香りは控えめで味わいもすっきり。トーストしたサンドイッチなどと合わせると、ビールの程よいこうばしさがマッチする。アメリカンコーヒーのように楽しめるビールである。他にも、ギネスの缶やドラフト(樽生)は色こそ真っ黒だが、クリミーな泡も手伝って飲み口はスムーズで、味わいもドライ。とりあえず金色のビール、ではなく、真っ先に黒をオーダーするのも通だ。もちろん、アルコール度数の高い黒いビールはシメに取っておこう。



Q2. 黒いビールって、ギネスみたいにパイントグラスで飲むのが一番おいしいんだよね。

A2. それ、ちょっと待った! 確かにギネスにはパイントグラスがベストパートナーだが、他のスタイルは別の形のグラスで飲んでみてほしい。例えば、黒いビールの中でも比較的軽いシュバルツであれば、ピルスナーグラスのような細身のグラスでクイッと飲むとクリアな味わいがより楽しめるし、アルコール度数の高いインペリアルスタウトなどは、口の広がったグラスのほうが香りを楽しめる。



Q3. ビール煮込みといえば黒いビール。どんなビールでもいいんだよね。

A3. それ、損してるかも! 黒いビールで煮込む料理にもいろいろあるが、ビールのこうばしさやコクを料理に移したいのであれば、ドライなビールではなく、やや甘味のあるビールをオススメする。スタイルで言えば、ドライスタウトよりもフォーリンスタウト(もともと海外輸出用に作られていたエキス分の高いスタウト)のほうがビールの味がしっかり料理に反映される。もっとも、料理の味のバランスを考えてビールを選ばないと、ビールの味だけがするものにもなりかねないので注意(そういうのが好みの人はそれもよし!)。



Q4. やっぱり、黒いビールにはナッツでしょ!

A4. それもいいけど、もっとペアリングを楽しもう! ローストした香りとナッツのこうばしさは確かに相性抜群だが、黒いビールのペアリングの引き出しは実は結構多い。鶏の照り焼きは、お互いのこうばしさがとてもマッチするし、シュバルツやドライスタウトを合わせれば料理の甘味も引き立たせてくれる。インペリアルスタウトのような重厚なビールであれば、白身魚のバターソテーにフルーツソースをからめたものなどがとても合う。さらに上級者は、濃厚な黒いビールとスイーツを合わせてみたい。チョコレートケーキとスイートスタウトを一緒に味わえば複雑な甘味のコラボレーションにテンションが上がる。バニラアイスの上にコーヒースタウトを少し煮詰めたものをかければ至福の時だ。甘いものにも合わせられるビールは黒いビールをおいて他にはない。



Q5. 窒素ガスといえばスタウトの専売特許。あのクリーミーな泡は他では楽しめないね。

A5. それ、ちょっと勘違い! 例えばヤッホーブルーイングの「よなよなリアルエール缶」では、缶の中に窒素ガスを充填したウィジェット装置(缶底に固定)を採用し、きめ細かな泡を家庭でも楽しめるようにした。また、一部のビアカフェでは窒素ガス(や炭酸ガスとの混合ガス)を利用して樽からビールを注ぐシステムを導入しているところもあり、黒いビールにこだわらず、さまざまなスタイルのビールを窒素ガスでサーブしている。炭酸ガスに比べて、窒素ガスはより安定しており、泡の粒が小さくなる性質がある。大きな泡は空気や隣の泡との接触ですぐに消えるが、小さな泡は消えにくい。そのため、窒素ガスで作られた泡はとても長持ち。また、炭酸ガスに比べて苦味や刺激を穏やかにする効果もあるとされ、個性の強いビールの飲み口を滑らかにしてくれる。スタウトだけでなく、他のビールも窒素ガスで楽しんでみてはいかが。