フラッグシップビールができるまで vol.2
~湖畔の杜ビール~

味わい天空

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。醸造家(ブルワー)の方々に、DREAMBEERで扱っているビールの開発秘話を伺います。第2回目は、秋田県仙北市にある「湖畔の杜ビール」の「味わい天空」です。

醸造所名:湖畔の杜ビール

秋田県の東部にある仙北市は、秋田市の東・岩手県盛岡市の西に位置している。同市の「湖畔の杜ビール」は、株式会社トーストが1999年より仙北市で運営しているブルワリーだ。水深423.4mの日本で一番深い湖「田沢湖」のほとりに設立した「田沢湖 湖畔の杜レストラン ORAE」の中に醸造施設を構えている。

同社のポリシーは、「酒は風土を醸すもの」。ビールを通して秋田の風土を表現することを目指している。定番は、「湖畔の杜ビール 味わい天空(ピルスナー)」「味わい天涯(デュンケル)」「味わい天恵(あきたこまちラガー)」の3種類。ほかにも、樹木になったまま完熟させた葡萄を使う「横手大沢葡萄ラガー、秋田県を代表するマスコット秋田犬を冠した「秋田犬ビール」、毎年12月に月の満ち欠けに従って発酵を行う「あかあかや月 ~新月仕込み~」なども醸造している。 ビール醸造の責任者は、湖畔の杜ビールの立ち上げからビールづくりを担う関口久美子さんだ。もともと食品の発酵に関わる仕事に従事しており、同じ発酵でもまったく異なる分野の酒の世界に魅力を感じていた。日本人になじみ深い「米」を使ったビールづくりにも興味を惹かれたことから、他ブルワリーではほとんど見かけない、米専用の糖化釜も導入している。

「ビールづくりには、自分自身が出る」と関口さん。ビール酵母が資化する麦汁をしっかりつくることに心を砕き、酵母の状態に最大限に気を配る。「酵母は生き物なので常に変化があり、気を緩めることができません」。

湖畔の杜ビールの仕込み釜は、煮沸釜、ろ過釜、「味わい天恵(あきたこまちラガー)」をつくるのに使用する糖化釜の3種類をそろえる。

同社を代表するビール、「湖畔の杜ビール 味わい天空」は、麦芽100%のピルスナー。口に含むと麦の旨味と甘味が爽やかに駆け抜けていく。湖畔の杜ビールの立ち位置を考える上でも、関口さんがつくるビールの方向性にとっても、原点であり根幹を創り上げたビールだ。

1994年に酒税法が改正された後、日本全国でマイクロブルワリーが急増した。湖畔の杜ビールが設立された1999年は、いわゆる「地ビール」の第一次ブームが収束していたタイミングだ。

同社がブルワリーを設立した当時は、すでに「地ビール」=「大手ビールのピルスナーとは異なる味わいのさまざまな種類がある」ことは周知されつつあった。残念ながら当時の地ビールは品質が良いものばかりとは言えず、飲み手が地ビールに対して抱くイメージは決してポジティブな意見ばかりではなかった。

湖畔の杜ビールは、いちブルワリーとしてどんなビールをつくっていけばいいのか──。それを考える上で、関口さんにはどうしても譲れないことがあった。それは、「ピルスナーをつくる」ことだ。

「日本人にとっての『ビール』といえば、明治時代から飲み続けられてきたピルスナーです。今でも、『どのビールが好きか』との問いに対して大手ビールの“銘柄”を答える方は少なくありません。
ピルスナーを飲み分ける鋭敏な舌を持つ日本人と、長く培ってきた日本のビール文化を避けては通れないと思いましたし、むしろピルスナー以外から入りたくはありませんでした」(関口さん)

湖畔の杜ビールがつくるすべてのビールは、「料理に使っている素材の元気さや滋味深さを活かす味わい」を念頭につくられているという。

湖畔の杜ビールは醸造開始当時から外国人醸造技師の手を借りず、日本人の感性のみでつくり上げた。現在も海外のビールコンペティションには参加せず、日本人が審査員を務める国内の「春季・秋季全国酒類コンクール」に出品している。「味わい天空」は、2016年と2020年に「第1位特賞」を受賞した。

高く評価されていることに喜びを感じつつも、関口さんには長らく気にかけていることがあった。「自分たちのピルスナーを、極めて質の高いピルスナーをつくり続けるドイツ人はどう評価するのだろうか」ということだ。

感想を聞く機会は、ドイツでビールプラントを造っているドイツ人が湖畔の杜ビールのレストランへ訪れることで実現した。すると、味わい天空(ピルスナー)、味わい天涯(デュンケル)ともども絶賛されたという。「ビールに携わるドイツの専門家に自分たちのビールを評価していただけたことは、コンクールで賞をいただいたことにも増してうれしかったです」と関口さんは振り返る。

「飲んでくださった方は、『開業時からつくっている天恵(あきたこまちラガー)、デュンケル、ピルスナーをつくり続け、クオリティを堅持していくことが湖畔の杜ブルワリーの使命だ』ともおっしゃった。私たちが時間をかけて追求してきたことは、決して間違っていなかったのだと勇気をもらえました」(関口さん)

日本に存在するマイクロブルワリーは、いまや600箇所を超えた。国内外のクラフトビールを飲んでブルワーを志した若年層も厚くなり、海外のトレンドを俊敏に取り入れるブルワリーも少なくない。

しかしながら日本のクラフトビールシーンがどう変化しようと、湖畔の杜ビールは、「日本のビール文化の積み重ねの上にある、日本人が愛するビールをつくり続ける」ことをアイデンティティとして、今後もブレることはないだろう。

関口久美子さんが味わい天空に合わせたいフード

野菜そのものの味を存分に生かしてくれると思いますので、特に枝豆はおすすめです。ほかには白あえや、味噌とお酢に砂糖を混ぜた、ぬた。今の季節でしたらタコとわかめのぬたがいいですね。

湖畔の杜ビールをDREAMBEERで購入

■ 湖畔の杜ビール 味わい天空Ⓡ
https://dreambeer.jp/ec/beer/detail/106

■ 湖畔の杜ビール 味わい天涯Ⓡ
https://dreambeer.jp/ec/beer/detail/107