新規参画インタビュー vol.07
~高知カンパーニュブルワリー~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でもひときわ輝くブルワリーの成り立ちや、DREAMBEERで新たに扱い始めたビールのご紹介をします。第7回目は、高知県香美市の「高知カンパーニュブルワリー」です。

高知カンパーニュブルワリー

「高知カンパーニュブルワリー」は、2017年に高知県で初めて設立されたブルワリーだ。高知県の東寄りに位置する香美市を拠点とし、ビールブランド「TOSACO」を展開。現在は白髪山を水源とする物部川のほとりに醸造所を構え、高知の生産者が情熱をかけて生産した作物の特徴を存分に生かしたビールづくりを行っている。

高知は海と山に囲まれて日照率が高く、柚子や文旦、米、紫蘇などの栽培が盛ん。同ブルワリーの代表と醸造責任者を務める瀬戸口信弥さんは、高知の農作物の豊富さをたたえ「高知県は食の素材が豊富な“日本の台所”」と表現した。

社名に使われる「カンパーニュ」の語源「カンパニオ」には「パンを分け合う人々」という意味があり、家族や仲間を表現するために取り入れた。また、ロゴは「(設立当時)ビール醸造所がない高知の海に、妻とふたりでビールの種を蒔く」という初心を込めたデザインになっている

「高知県は、34市町村にそれぞれの特色ある生産物があります。たとえば四万十地域には『ぶっしゅかん(仏手柑:香酸柑橘の一種)』、宿毛市には『直七(すだちの希少品種)』のように、高知でしか生産していない作物も。刺し身の醤油にぶっしゅかんで香り付けをしたり、郷土食の「土佐田舎寿司」には柚子の果汁を寿司酢代わりに使ったりもします。

このように、地域独自の気象条件によって生まれる生産物と、それによって生まれてきた食文化をとても興味深く感じています」(瀬戸口さん)。

合同会社高知カンパーニュブルワリーの代表 兼 醸造責任者の瀬戸口信弥さん

瀬戸口さんは大学院卒業後、大阪にある電気機器メーカーでエンジニアとして従事していた。そんな中、会社が手掛ける事業の“パーツ”としてではなく、自分自身で「ものづくり」したものを消費者に届けたいという気持ちが芽生えていく。

何を手掛けるか考えていた際にクローズアップされてきたのが、一家全員が楽しんでいたお酒の存在だ。特に皆ビールが大好きで、飲むと皆が明るく朗らかになる。ビールは家族の結束力を高めてくれる──そんなポジティブなイメージを持っていたという。

2015年にはブルワリー開業の意思を固め、瀬戸口さんは島根県江津市にある「石見麦酒」へ醸造研修に赴いた。大掛かりな設備や場所がなくとも小ロットでビールがつくれる「石見式醸造方式」を学ぶためだ。2017年には高知県ビジネスプランコンテストで優秀賞を受賞、2018年2月より香美市土佐山田町でブルワリーを稼働させ始めた。

原材料や酵母の特徴を生かす工夫を

TOSACOの定番は、「ゆずペールエール」「こめホワイトエール」「土佐IPA」「和醸ケルシュ」「ありがとさこ(ヘイジーIPA)」の5種類。いずれも高知産の原料を使っており、口当たりが柔らかく苦味が穏やかだ。

「私の妻はもともとビールが苦手でした。聞けば特にホップの苦味に抵抗があるとのこと。ビール好きな私は、妻とともに楽しめるビールで乾杯がしたいと苦味と甘味のバランスを考慮したことが、TOSACOらしいビールにもつながっていると思います」。

DREAMBEERでは4種のホップと土佐文旦の果皮で豊かな柑橘の香りが楽しめる「土佐IPA」と、ビールのエール酵母に加えて日本酒酵母を使った「和醸ケルシュ」の2種類を扱っている。

特に後者は、棚田で栽培されている食用ブランド米「土佐天空の郷」を精米せずに使用。日本酒酵母は、高知にある18の酒蔵の多くで使われているものを選んだ。エール酵母を通常よりも低温で発酵・熟成させるケルシュスタイルの製法を用いることで、淡麗辛口を持ち味とする土佐の地酒の酵母の特徴をより引き出せるよう工夫している。

「まずは炊いた米に米糀を合わせて甘酒をつくった上で、麦汁と甘酒を最初に日本酒酵母で発酵させます。日本酒酵母での発酵が優勢になってからビール酵母を加えるのがポイントのひとつ。日本酒ではバナナ香が出るとよく言われる酵母なのですが、ビールではアンズのようなニュアンスを醸しているのが面白いですね」。

醸造施設は、最大1300ℓの仕込釜と12バレルの発酵タンクが6本に加え、旧醸造所から移設した120ℓのタンクを8本備える。小さいタンクでは試作や季節限定品、希少な副原料を使ったビール、農家さんらとともに開発したビールなどを醸造

高知との縁と感謝と食文化へのリスペクトが結実

瀬戸口さんは大阪、妻は兵庫の出身だ。高知県は、妻の兄が高知大学へ通っていたことで学生時代から何度か遊びに来ていたために、移住前から親近感を深めていた土地だった。TOSACOを始めてからは地域の人々の温かさに触れ、ますます高知への愛着が深まったという。

「実は、TOSACOを始めた当初から生産量を超える注文が入ってしまい、1人で睡眠時間を削って対応しているうちに1ヶ月ほどで体調を崩してしまったのです。そこに、新聞を見た町内会長さんが『何か手伝えることはないか』と訪れてくれて。彼の友人とともにボランディアでボトルのラベル貼りに従事してくれました」(瀬戸口さん)

感謝の気持ちは、「地域の人たちにTOSACOのビールで豊かさを届けたい」「地域の人が作る農作物を、TOSACOのビールを通してもっと日本中の人に知ってもらいたい」という想いに変化していく。2022年12月末、年間120klの生産量を可能にした新工場を香美市香北町に設立、今年の4月15日にはできたてのビールが楽しめる「TOSACO TAP STAND」もオープンした。

物部川のほとりに新しく設立した醸造所。醸造風景を眺めながら9タップのTOSACOビールが楽しめる「TOSACO TAP STAND」も併設。醸造所の裏はビアガーデンとして開放する

今後は、麦芽やホップなど高知産の主原料を使ったビールづくりやTOSACOをきっかけとしたビアツーリズム、高知の地域資源である木材を使った「木質バイオマス発電」で稼働させるブルワリー構想も視野にいれている。

家族と朗らかに乾杯したい、妻が楽しめるビールで一緒に楽しみたい。そんな気持ちに加え、土佐の酒づくりや農作物栽培へのリスペクトがTOSACOというブランドを創り上げた。そして、自分たちを見守り影に日向に応援してくれる地域への感謝の念が、さらなるビールの品質向上へと向かわせたように思う。

着実にブランドを磨き上げてきた瀬戸口さんなら、地域の人と協力しながら必ずや構想を現実のものにしていくに違いない。

瀬戸口信弥さんが和醸ケルシュに合わせたいフード

和食に合うのでナスの揚げ浸しやおでん、冷奴などがおすすめです。高知にいらしたらぜひ、塩で鰹をいただく「塩鰹」を試してみてください。高知の塩作りはほとんどが天日塩なので、塩の味わいが丸くてふくよかなのが和醸ケルシュにピッタリです。

TOSACOをDREAMBEERで購入

■ TOSACO 和醸ケルシュ

■ TOSACO 土佐IPA