日本のブルワリー探訪 vol.09
~金澤ブルワリー~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに亘り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第9回は、石川県金沢市の「金澤ブルワリー」です。

石川、そして金沢らしいビール造りを追求する、金澤ブルワリー

 代表の鈴森由佳さんが「金澤ブルワリー」を立ち上げたのは、2015年春。
 社会人になってからの世界各国への旅や、2年間のカナダ留学が大きなきっかけになった。
 「海外に出たことで、地元の石川、そして金沢の魅力に改めて気づき、強い誇りを持つようになりました。そして帰国後、自分の故郷に何か貢献できる事業を起こしたいと考えたのです。その時頭に浮かんだのがカナダで出合ったクラフトビールでした。ビールに対するイメージが覆る多彩な味わいに驚き、地域色が豊かであること、人々の生活になくてはならないものとして浸透している文化にも心を動かされ、無限の可能性を感じました」
 当初金沢にはブルワリーがひとつもなく、クラフトビール文化は根付いていなかった。
 しかし質の高いビール造りは徐々にファンを増やし、今は供給が追い付かないほど人気になっている。
 「おいしくてリピートしている」「贈り物にしたい」。そんな声を聞けるようになったことに、鈴森さんはこの上ない喜びを感じている。

「おいしさを追求することはもちろんのこと、人がわくわくするビールづくりを心がけ、今に満足せず、チャレンジを続け、日々スタッフ一同業務に励んでいます」と代表の鈴森さん

原動力は情熱と愛情

 醸造は東京のブルワリーで研修を受けて学んだ。
「お金がなかったので平日は金沢で仕事をしながら、休日に夜行バスで金沢・東京を往復する生活を続けていました。もう一度やれと言われてもできないハードな日々だったなと振り返ることがあります」
 ビール造りを始めてすぐの頃は、うまく発酵が進まず心配で工場に泊まり込み、ビールの様子をずっと観察し続けたこともあった。
 事業が軌道に乗り始めるまでの数年は、クラフトビールならではの味わいや、人によっては高いと感じてしまう価格をどうすれば金沢で受け入れて貰えるかと悩んだ。
 情熱を原動力に、たくさんの課題と真摯に向き合い、いつもベストを尽くしてきた。
 苦労があった分、ブルワリーにもビールにも本当に深い愛情がある。
 創業から9年が経ち、鈴森さんはこう考えるようになった。
「辛いことがあったとしても、人生に意味のないことはないです。すべて何かしら意味があって起こることで、乗り越えられない試練を神様は与えません」
 神様は自分を成長させてくれているのだと。
 現在、金澤ブルワリーのスタッフは8名。人が増えて規模も大きくなってきた分、「ひとつの会社としてもっとしっかりビジョンと責任を持ち、世の中の役に立てるよう、事業に取り組んでいきたいと考えています」。

金沢市内住宅街にある現在の本社工場。最初はひとりからのスタートだったが、現在は8名のスタッフと心をひとつにして事業に取り組んでいる
2023年の11月に立ち上げた能登島の第二工場。今後は本社工場と2拠店で製造販売を行っていく
熟練の技術とクラフトビール愛に鈴森さんが全幅の信頼を寄せている本社工場の醸造責任者、高橋勇一さん(右)と、第二工場の醸造責任者、山本昌幸さん(左)

「金澤麦酒」は香りから楽しんでほしい

「金澤ブルワリーでは、ビール酵母の培養から行い、深い味わいと豊かな香りを追求し続けています。いずれの銘柄もまずはお飲みになる前に香りからお楽しみいただけると嬉しいです」。
 石川、そして金沢らしい特色を出すために、主原料の一部は地元産を使用している。
 また、創業当初から豊かな食文化を育む美食の街、金沢の飲食店の声にも耳を傾けながら、試行錯誤を重ねてきた。
「金澤麦酒は、いわば地元の方々に育てていただいたビールでもあります」と鈴森さん。
 DREAMBEERに提供しているフラッグシップの「VIRGIN ALE(ペールエール)」は、和食の名店から意見を貰って、味わいのバランスを試行錯誤し、食中酒としての完成度を高めた。
「ヴァイツェン」は、華やかな香りやすっきりとした仕上がりが評価され、日本最大級のビールコンテスト「ジャパン・グレートビア・アワーズ2020」で銀賞を受賞している。
 いずれも、鈴森さんが初めてカナダで味わい衝撃を受けた、そしてクラフトビールが大好きになるきっかけになった、思い入れのあるビアスタイルだ。

 2023年の11月には能登島に第二工場を設立した。試運転を経て本格稼働に至れば、現在の約3倍の量(年間約136KL ※第二工場には増築用のスペースを設けており、将来的にはさらに醸造量拡大予定)のビール造りが可能になるとのこと。これまでは製造量が追い付かないためほぼ石川県内での流通にとどめていたが、県外にも販路を広げる準備が整いつつある。
「弊社のブランドである金澤麦酒を通して、地元の魅力を広く発信していきたいとの思いがあります。その意味ではDREAMBEERさんとご縁をいただけたのも幸せです」
 今後はさらに、原料の自家栽培や麦芽粕など醸造時に発生する副産物の有効活用、6次産業への取り組みなどにも力を入れていきたいと鈴森さん。ますます精力的に活動する金澤ブルワリーの躍進に注目したい。

鈴森さんが「VIRGIN ALE」「ヴァイツェン」と合わせたいフード

「VIRGIN ALE」は、 スタイルはアメリカンペールエールですが、程よい苦みもあるため定番のお肉だけでなく、金沢らしいお魚料理にも合います。
「ヴァイツェン」は、フルーティーな風味が特徴的で、カルパッチョのようなあっさりとした味わいのお料理やパスタなどの洋食にも合います。

DREAMBEERで購入

◆ VIRGIN ALE

◆ ヴァイツェン