ビアスタイルとはビールの種類(タイプ)のことをいいます。アメリカのビール団体Brewers Association が公表している『ビアスタイル・ガイドライン』によれば、2021年現在、世界には180以上におよぶスタイルがあるとされています。それらすべてを覚えなくてはいけないものではありませんが、大まかにでも把握しておけば、自分が飲みたいビールの香りや味わいの手がかりになります。ここでは、これを知っておけばビールをもっと楽しめるという、基本的なビアスタイルを紹介します。
1.最初の1歩、エールとラガーの違いを知る ビールは、酵母が麦汁をアルコールと二酸化炭素に分解することによってできるわけですが、その酵母が働く温度帯の違いでエール(上面発酵酵母)とラガー(下面発酵酵母)に分類されます。
2.DREAMBEERで飲めるビアスタイルガイド 現代のクラフトビール・シーンで、もっとも多く造られているビアスタイル──、といっても過言ではないだろう。元々は、イギリス発祥ではあるが、華やかな香り持つアメリカン・ペールエールが主流となっている。そのため、多くは果実味を感じられるものが多く、レモンやグレープフルーツ、オレンジといった柑橘類は代表的な香りだ。ホップ由来の苦味に気を取られがちだが、ぜひ、これらの香りを楽しんでほしい。
香りと苦味が個性的な味わい 「IPA(インディア・ペールエール)」 その名の通り、イギリスから植民地であるインドに輸送するに際し劣化を防ぐため、アルコール度数を高め、防腐効果を持つホップを大量に投入したことが起源という説と、元々そういうレシピのビールが存在し、それをインドへ送ったという説がある。現在、単にIPAといった場合、柑橘系の華やかな香りをまとった「アメリカンIPA」を指すことが多い。また、ニューイングランド地方で発祥した霞のように白濁したフルーティーな香りが特徴のヘイジーIPA(ニューイングランドスタイルIPA=NEIPA、あるいはDDH IPA)、ホップの苦味や香りの強さはそのままにアルコール度数を抑えたセッションIPA、逆にアルコール度数を高めホップをたっぷり効かせたインペリアルIPA(ダブルIPA)など、クラフトビールの人気スタイルだけにバリエーションも多い。
アメリカ西海岸が発祥といわれているビアスタイル。ペールエール(淡いエール)よりも、文字通り、一段と褐色の強いその外観が特徴だ。これは、焙煎の強いモルトを使用することに由来する。そのため、味わいもカラメル香とともに豊かなボディ感も楽しめる。アメリカはもちろん、日本でもでもラインナップするマイクロブルワリーは多い。モルトとホップのバランスをいかにとるか──、造り手の実力が如実に現れるビアスタイルのひとつ。
「レッドエール」という単純に表記されている場合は、ちょっと注意が必要。というのは、「赤い」という外観の特徴を持ち、それが名前となっているビアスタイルは①アイリッシュ・レッドエール(モルトの豊かな風味が特徴)、②フランダース・レッドエール(赤ワインのような酸味が特徴)、③アメリカンクラフトのアンバーエールがあるからだ。ただ、日本のクラフトビールは多くの場合、いずれかの表記がきちんとされているのでご安心を。
フルーティーでシャープな飲み口「ケルシュ/アルト」 ともに、上面発酵酵母を使いながら、低温発酵、低温熟成という、独特の醸造法を採るビアスタイル。上面発酵由来のフルーティーな香りと低温発酵、低温熟成されることによる、シャープな飲み口が特徴だ。ケルシュとはドイツのケルン地方で「ケルシュ協定」に基づき醸造されるビールに対する地理的表示で、外観は、淡い黄金色となっている。一方のアルトはデュッセルドルフを中心に造られている濃色系のビール。
「酸味」が特徴ではあるが、その造り方は多岐におよび一筋縄ではいかないカテゴリー。発酵過程において、ビール酵母の他に自然酵母や乳酸菌、熟成時にフルーツを漬け込んだり、ワインのように樽熟成させることによって、樽の風味をまとわせることもある。ベルギーの自然酵母で発酵させるランビックや先述のフランダース・レッドエール、そして酸味の他塩味も特徴であるドイツのゴーゼも、大きくはこのサワーエールに分類される。
「白ビール」の代名詞的存在。淡い麦わら色から琥珀色で霞みがかった外観。香りは酵母由来のクローブ(丁字)やナツメグのようなスパイシーな香りとバナナのようなフルーティーな香りが特徴だ。日本でも非常に人気のあるビアスタイルで、多くのマイクロブルワリーで造られている。造り手によって、フルーツ(バナナ)の香りが強かったり、クローブの香りが強かったりと、その個性の違いをぜひ楽しんでいただきたい。
18世紀初頭、ロンドンの港湾労働者(荷運び人=ポーター)たちの間で愛されていた。元々は、古くなったブラウンエールに新しいブラウンエールとペールエールをブレンドしてパブで売り始めたといわれている。なので、誕生当時は今のような黒色ではなく、褐色であったといわれている。このポーターから派生したスタウトよりもホップのアロマが強い。両者を飲み比べてその違いを楽しむのも、クラフトビールならではの楽しみだ。
ベルギー発祥のビアスタイルで、多くの場合「農家が春から夏の農作業時の喉の渇きを癒やすために冬に仕込んだビール」(セゾン=季節)と定義される。しかしこの「農家のビール」というのは、1990年代にベルギービール研究家のマイケル・ジャクソン氏によって植え付けられたイメージであり、本来はフランスのビエール・ド・ギャルド(保存ビール)と同義であると考えるほうが正しい。ベルジャン酵母由来の果実香や黒胡椒を想起するスパイス香が感じられる。
上面発酵の黒ビール。アイルランドのギネスが、当時ロンドンで大流行していたポーターを安価で提供するために、課税対象であった「麦芽」ではなく「麦芽化していない大麦」を原料にして誕生した。そのドライな飲み口が受け、大ヒットとなった。きめ細かい泡と泡持ちの良さが大きな特徴。コーヒーやチョコレートの他、焙煎による焦げや酸味も感じられる。甘さを加えたミルクスタウト、アルコールを高めたインペリアルスタウトなど、派生スタイルも多い。
アルコール度数を低くしたビール「セッションエール」 セッションとは英語の「集会」から「みんなで集まってワイワイ、ガヤガヤ楽しく、長く飲めるようにアルコール度数を低くしたビール」という意味。そのため、セッションエールという表記の場合、ベーススタイルが何かを知る必要がある。ただ、日本のクラフトビールの場合は、セッションIPA(インディアンペールエール)やセッションサワーエール等、ベーススタイルをきちんと明記しているケースが多い。
副原料にフルーツの果汁、果肉を一定量使用することによって、その香りや風味がはっきりと醸し出されているビール。外観はベースにしたビアスタイルや使用果実によるところが大きく一概にはいえないが、いずれにしても両者のバランスが取れていることが評価のポイントとなる。ヨーロッパでは食後酒やデザート酒としても親しまれている。ちなみに、副原料に野菜を使ったものはフィールドビール、香草や香辛料を使ったものはハーブ・スパイスビールに分類される。
ベルギー発祥の歴史あるビアスタイル 「ベルジャン・ホワイトエール」 14世紀にはすでに造られていたと記す文献がある、たいへん歴史のあるビアスタイル。日本でも、IPA、ペールエール、ヴァイツェンに並ぶ人気を誇る。外観は麦わら色。無濾過のため霞んでみえる。ドイツ発祥のヴァイツェン同様麦芽化していない小麦を使うが、こちらは副原料にコリアンダーとオレンジピールが使われており、飲み口のすっきりとした爽やかなビールに仕上げられていることが多い。単に「ホワイトエール」と表記されることも。
修道院由来の高アルコールビール 「デュッペル/トリペル」 元々は、ベルギーの修道院で造られていたアルコール度数の高いビール。外観は茶色から濃い焦げ茶色。泡はきめ細かくムースのようである。麦芽由来のチョコレートやカカオ、カラメルのようなアロマが特徴。ホップの香りは穏やかで、バナナのような甘い果実のアロマが感じられる。さらにアルコール度数が高い(7~10%)トリペルもビアスタイルとして定義されている。こちらの外観は明るい麦わら色から明るい琥珀色だ。
19世紀の初頭、チェコのピルゼンで初めて造られた下面発酵ビールの代表的スタイル。黄金色に輝き、純白のクリーミーな泡がこんもり盛られた外観、ほどよいホップの香りと苦味、モルトの旨味、そして爽快な喉ごしという多くの人が描くであろうビールのイメージは、このピルスナーによってもたらされた。オリジナルのボヘミアンピルスナーは、わずかにゆで卵のような香り(ダイアセチル)が漂うのが特徴だ。
清涼感ある香りをまとったラガー 「IPL(インディア・ペールラガー)」 別項で紹介したアメリカンIPAの華やか、かつフルーティーな香りを下面発酵のビールにまとわせたスタイル。従来の「〇〇ラガー」という銘柄のビールは、ドイツ、およびその周辺国の発祥で、苦味が強く、香りは控え目なホップを使うことが多いが、IPLはアメリカやニュージーランド産の、柑橘系やフローラルといった香りに特徴のあるホップを使っている。清涼感のあるホップの香りと爽快な飲み口で、IPAよりもむしろこのIPLを好む人も少なくない。
南ドイツ発祥、風味豊かな黒 「デュンケル/シュヴァルツ」 ともに南ドイツ発祥の濃色下面発酵ビールでモルトの豊かな風味が特徴。シュヴァルツはドイツ語で「黒」という意味。日本の大手ビールメーカーが製造する「黒生〇〇」「〇〇黒」と謳う銘柄は、酵母の分類でいえばほとんどがこのシュヴァルツである。一方のデュンケルはシュヴァルツに対しやや明るく、褐色からこげ茶の外観。ゆえに、ローストモルトを使用した褐色のヴァイツェン(上面発酵)は「デュンケルヴァイツェン」とカテゴライズされるので、ちとややこしい。
アメリカ大手メーカーはこれ 「アメリカン・ライトラガー」 バドワイザーやクアーズ、ミラーといったアメリカの大手メーカーのビールがこのスタイルだ。炭酸がやや強く、ホップの香り、苦味、モルトのボディ感ともに控え目。時として、「水っぽい」、「シャバシャバしている」と揶揄されることもあるが、このスタイルならではのすっきりした飲み口は、亜熱帯化した日本の夏の、喉の渇きを癒やすのにぴったりと好む人も多い。単にアメリカン・ラガーと表記されることもある。
3.世界のビアスタイル、その発祥を知る 現在、世界には180種類を超えるビアスタイルがありますが、そのほとんどは、ヨーロッパ、なかでも長いビール造りの伝統を持つ、ドイツ、イギリス、ベルギー由来のものと、世界一醸造所数(2019年で8000を超える)を持つクラフトビールの先進国、アメリカ由来のものです。ここでは、おもなビアスタイルの発祥をご紹介します。
ラガービール発祥の地︱ドイツ
1516年にドイツで「ビールは大麦とホップ、そして水以外のものを用いて醸造してはならない(のちに酵母が追加される)」という「ビール純粋令」が施行されました。ドイツでは現代でも、国内で製造されるラガービールはこの「ビール純粋令」を守っている醸造所が数多く存在します。その後、1842年にボヘミア(現チェコ)のピルゼン市で世界初の淡色ラガー「ボヘミア・ピルスナー」が生まれました。それまでのラガービールはすべてダークな色合い。その中で新たに誕生した淡いゴールドカラーのビールはたいへんな評判を呼び、ドイツもこれに倣いジャーマン・ピルスナーが盛んに造られるようになりました。ラガーはその他にも、ミュンヘンで古くから造られている口当たりがまろやかなブラウン色のデュンケルや、高アルコールのボック、香ばしい甘みのある黒ビールであるシュヴァルツなどがあります。 一方、エールで有名なのが、南ドイツ(バイエルン地方)発祥で、大麦麦芽に加えて小麦麦芽を使った泡立ち豊かなヴァイツェンです。他、8世紀から造られている伝統なアルト、原産地呼称でもあるケルシュなど、バリエーションも豊かです。
ミュンヘンで開催される世界最大のビール祭り「オクトーバーフェスト」 人気エールを生んだビール大国︱イギリス
15~25度で発酵させるエールは雑菌の繁殖の危険がありましたが、夏は涼しく冬は温暖なイギリスの気候はこのエール造りに適していました。ペールエール、IPA(インディア・ペールエール)、ブラウンエール、スタウト、ポーター、バーレイワインなど、現在人気の高いスタイルの多くがイギリス発祥です。 イギリスでは、パブでエールビールを飲む習慣が根付いています。そして、パブの醍醐味といわれるのがカスクコンディションのビール(リアルエール)です。ブルワリーで造られたビールを濾過や熱処理をせずに樽(カスク)で二次発酵させ、飲み頃になるまでパブで管理するため、店ごとに違う味わいが楽しめることが大きな魅力です。
イギリスやアイルランドのパブに並ぶ種類豊富なタップ 独創的なビアスタイルで世界中の人々を魅了︱ベルギー
ベルギーは日本の九州より一回り小さい国ながら、地域ごとに穀物や果物、ハーブなど、その地方の特産物をビールに使ってきた伝統があり、ビールの種類も豊富です。現在でも1000種類以上の銘柄があるといわれています。なかでも野生酵母を使って発酵させたランビックは、3年以上経った古いホップを使用したり、発酵と熟成に3年かけたり、古いビールと新しいビールをブレンドするといった独特の造り方で知られています。また、味わいもビールとは思えないほど強い酸味があり、多くのファンを生んでいます。 ヒューガルデンで知られるベルジャン・ホワイトエールは、麦芽化しない小麦を混ぜ、コリアンダーシードとオレンジの皮の風味を加えているのが特徴で、世界的に人気のビアスタイルです。 1977年、イギリスのビール評論家、マイケル・ジャクソン氏が著作「The World Guide To Beer」でベルギービールを紹介したことでその魅力が徐々に世界へ伝わっていきました。今もなお、アメリカや日本のクラフトビールに大きな影響を与えています。
穀物や果物、ハーブなど特産物を使ったビールの種類が豊富 ホップの品種開発も意欲的に行うクラフトビール先進国︱アメリカ
イギリスやドイツ、そしてベルギー生まれのビールも、アメリカによってさまざまに解釈され、独自の発展を遂げました。たとえば、現在クラフトビールの代名詞的存在であるIPAも、元々はイギリスが発祥ですが、華やかな香りのアメリカンホップを使うことで、オリジナルのIPAとは異なるキャラクターのビールとして生まれ変わりました。また、趣味としてのホームブリューイングが盛んで、それがビール造り全体のレベルを押し上げ、全米各地で次々に挑戦的なクラフトビールブルワリーが誕生。クラフトビールの先進国として独自の進化を遂げています。
挑戦的なブルワリーが続々と誕生し、クラフトビール先進国としての進化を遂げる 世界的な評価が確立されるジャパニーズクラフト︱日本
日本のクラフトビールの歴史は、1994年の酒税法改正によってはじまりました。2021年現在、全国約500カ所を超える大小のブルワリーが個性豊かなビール造りに取り組んでいます。和食同様、日本人の繊細な味覚によって造り出される日本のクラフトビールは世界的に評価されています。また、日本では“薬味”としてお馴染みの紫蘇や山椒、柚子などは、ビールに独特の香りを与える副原料として世界中のブルワーが注目しています。
香りが良くすっきりとした和のフレーバーが、海外からも注目されている