日本のブルワリー探訪 vol.12
~さかい河岸ブルワリー~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに亘り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第12回は、茨城県猿島郡境町の「さかい河岸ブルワリー」です。

個性豊かなビール造りが信条。さかい河岸ブルワリー

 大正4年創業の酒問屋「安井商店」の4代目店主、安井健さんが「さかい河岸ブルワリー」を立ち上げたのは2018年のこと。
 設備の購入から組み立て、メンテナンス、醸造工程の一つひとつを自らの手で行い、手づくり感を大切にした、地元愛と職人魂溢れるビール造りを続けている。
「ブルワリー名は、江戸時代から明治時代にかけて、利根川水運の重要拠点として栄えた『境河岸』にちなんで付けました」と安井さん。
 地域活性化に貢献し、生まれ育った地元「境町」を昔のように盛り上げたいとの思いがこもっている。

「世界レベルの品質と味わいを目標に、日々全力を尽くしています」と代表の安井さん

アメリカンIPAの衝撃

「ビールを造ってみたい」
 そのような気持ちになったのは、2015年のハワイ旅行がきっかけだった。
「ホールフーズ・マーケットを訪ねた際のことです。何百種類というクラフトビールが大きな冷蔵ケースを埋め尽くしている様を見て、『これは凄い』と――。その時購入したのが当時も今も世界中で人気のアメリカンIPAだったのですが、グラスから溢れるような柑橘の香りと苦味の強さに衝撃を受け、心を鷲掴みにされました」
 帰国後、早速クラフトビールについて詳しく調べた安井さんは、日本にも魅力的なマイクロブルワリーがいくつも存在していることを知った。そして、「小規模でひとりで始められるなら、自分にも可能なのではないか」とチャレンジ精神に火が付いた。
 オートメーション機能のある設備を使用するのではなく、より自分らしさが出るアナログな設備でビール造りに取り組もうと最初に決めた。ブルワーとしての技術力もその方がしっかりと身に付くに違いないとの思いもあった。
ラインナップの主軸に据えようと考えたのは、自分を魅了した香り豊かなアメリカンスタイルのビール。フレッシュなホップを用い、独自の原料の配合を突き詰め、五感を駆使して理想とする味わいを追求している。

「さかい河岸ブルワリー」は、「道の駅さかい」内にある。年間生産可能醸造量は21KL

「さしま茶エール」で地元に貢献したい

「さかい河岸ブルワリー」がある茨城県西部、猿島地方には、「日本から初めてアメリカに輸出された茶」といわれているブランド茶がある。
 安井さんが子どもの頃から日常的に口にしている「さしま茶」だ。
「甘味、苦味、渋味のバランスがよく、コクがあって香り豊か。私にとっては生活に欠かせないお茶です。とはいえ、全国的な知名度はまだまだなのも事実。このお茶を使用したクラフトビールを手掛け、『さしま茶』を多くの人に知っていただく機会を増やし、地元に貢献したいと思っています。DREAMBEERさんにも提供させて貰っている『さしま茶エール』、ぜひ味わってみてください」
 ちなみに、「さしま茶エール」のベースになっているビアスタイルは、アメリカンペールエール。試行錯誤を重ね、「さしま茶」の魅力とビールの豊かな味わいを両立させた、口にするとホッとする優しいおいしさが人気を呼んでいる。
 DREAMBEERに提供しているもうひとつの銘柄であり、日本を代表するビールコンテスト「ジャパン・グレートビア・アワーズ2020」で金賞を受賞した「さかい河岸ブルワリー ペールエール」もアメリカンペールエールなので、味わいの違いに注目して、飲み比べてみるのも一興だ。

さしま茶畑。「葉に厚みがあり、お茶にすると濃厚な風味とコクを楽しめます」と安井さん

もっともっとおいしいビールを!

「あの経験があったから、今があると思います」
 安井さんにはそう口にする、忘れられない経験がある。
 初仕込みを終え、2018年の5月にいよいよリリースという段階を迎えながら、予期せぬ設備トラブルに見舞われ、頓挫してしまったのだ。「今振り返ると、心のどこかに緩みがあったのではないかと……」。
 数々のメディアに取り上げて貰ったにも関わらず、直前でビールをリリースできないとの発表をせねばならなくなり、たくさんの人々に迷惑を掛けた。そして、立ち直れないのではないかというほど落ち込んだ。
 なんとか前を向けたのは、それまで自分を支えてくれた人々を裏切りたくなかったからだ。
 ブルワーとして、これからどうあらねばならないかを真剣に考えた。
 絶対に手を抜かず、真摯にビール造りと向き合い続ける職人でありたい。
 設備、衛生・安全管理、すべての醸造工程を徹底的に見直した。
 大手ビールメーカーの醸造部門で40年以上活躍した人物を顧問として迎え、味わいと品質に磨きを掛けた。
「もし失敗という経験をしていなかったら、ここまでとことん突き詰めてビールを造るようになっていたかどうか。2019年1月に無事にビールをお披露目できた時の喜びは今も忘れません。以来、『もっともっとおいしいビールを!』という意気込みで、ビール造りに取り組んでいます」

 さしま茶以外にも、地元産のイチゴやトマトなどの特産品を使用したビールを開発し、ラインナップを充実させている。さらには、現在ウイスキーとクラフトジンも手掛けていることから、その知見を活かした、これまでにないようなビールの味わいづくりも探求中だ。
「一人でも多くの方にファンになっていただけたら嬉しいです。今後も日々を全力で過ごし、世界レベルの品質と味わいを目指します!」

安井さんとともに思い入れたっぷりのクラフトビールを造っているブルワーの番場柊平さん(左)とアシスタントブルワーの香取保則さん(右)

安井さんが「さかい河岸ブルワリー さしま茶エール」「さかい河岸ブルワリー ペールエール」と合わせたいフード

ホップ由来の柑橘系の芳香と、新鮮な茶葉の風味が特徴の和テイストの「さしま茶エール」は、ぜひ和食や和菓子と合わせてみてください。
麦の風味とホップの香りをバランスさせ、クラフトビールを飲みなれていない方にも楽しんでいただけるように仕上げた「ペールエール」は、肉料理全般と相性がよいですよ。

DREAMBEERで購入

◆ さしま茶エール

◆ ペールエール