日本のブルワリー探訪 vol.03
~ワイマーケットブルーイング~

現在、日本全国から100以上の銘柄を皆様にお届けしているDREAMBEER。その中でも長きに渡り日本のクラフトビールシーンに貢献してきたブルワリーにスポットを当て、各々がビールづくりで大切にしている考え方を中心にご紹介します。第3回目は、愛知県名古屋市にあるブルワリー「Y. MARKET BREWING(ワイマーケットブルーイング)」です。

ワイマーケットブルーイング

「ワイマーケットブルーイング」は、愛知・名古屋に初めて誕生したブルワリーだ。ブルワリー名の「Y.MARKET」とはブルワリー近くに位置する「柳橋中央市場」のこと。およそ4000坪の敷地に約300店舗が営業する「名古屋市民の台所」として知られている。柳橋界隈で生まれ育った同ブルワリー代表の山本康弘さんが、「自分たちのつくるビールが飲む人に今日の喜びと明日への活力となり、故郷柳橋がいつまでも活気ある街であり続けてほしい」という想いを込めて命名した。

柳橋醸造所の2階にある「Y.MARKET BREWING KITCHEN」で、できたてのビールが味わえる

山本さんは、1935年創業の酒販店「酒の岡田屋」の三代目でもある。岡田屋を営む中、クラフトビールの多様な味わいに感銘を受けて取り扱いを開始。さらに自社でもクラフトビールをつくりたいと考え、長野県の「木曽路ビール(2018年3月に閉鎖)」へ視察に出向いた。そこで知り合ったのが、現在ワイマーケットブルーイングの醸造責任者を務める加地真人さんだ。

2014年1月、加地さんを醸造長として迎え入れワイマーケットブルーイングを設立。同年、さらに三重県の「伊勢角屋麦酒」で醸造長を務めていた中西正和さんが合流する。

ワイマーケットブルーイングが目指すビールの理想形は、「美味しく、楽しく飲んでもらえるバランスがとれたビール」だ。既存のビアスタイルに縛られずにアイデアを出し合い、これまで300種類以上のラインアップを生み出している。酵母やホップを吟味した繊細なビールづくりが功を奏し、設立からほどなくして全国的な知名度を誇る存在に。供給が追いつかない状況が続いた。

「販売はオンラインでも行っていたのですが、新作の樽を出せばまさに“瞬殺”で。幸いなことに設立当時から引き合いが多かったこともあり、翌年には新工場の構想が固まっていました」(加地さん)。

そうして2018年、柳橋醸造所の3倍の規模を誇る「ワイマーケットブルーイング名古屋西」を開設。新工場では、DREAMBEERでも提供している「ヒステリックIPA」をはじめ4種類の定番商品、さらに「缶商品の製造」も開始した。

名古屋西醸造所(写真左・中央)は、日本では初となるドイツ・ブラウコン社の醸造設備を導入。3.5㎘の発酵タンクを9基、熟成用タンクを3基備えており、柳橋醸造所(写真右)と合わせて年間300㎘のキャパシティを持つ

2杯目、3杯目への工夫

ワイマーケットブルーイングのビールは、なぜ設立当初から現在にいたるまで人気を博し続けているのだろうか。加地さんは、「1回飲んだだけで目移りするのではなく、2回、3回続けて飲んでもらえるビールをつくることに心を砕いているからではないか」と分析している。

「続けて飲んでもらえる・買ってもらえるって、今でもすごく難しいことだと感じています。ビールに関して具体的に工夫しているのは、バランスの良さ。特に苦味の質感を表現するのに細心の注意を払っていて、それが“ワイマーケットらしさ”にもつながっている気がしますね」(加地さん)。

たとえば同じ「IBU50」のビールでも、口に含んだ瞬間ホップの苦味を強く感じさせてスッと引いていくもの、逆に苦味の余韻を長く感じさせることを狙いとしたものでは、飲んだ印象が大きく異なる。ワイマーケットブルーイングがつくる多くのビールで狙っているのは前者だ。

「苦味の印象を引きずりすぎずに飲み終えてもらうことで、おかわりの一杯につなげたい。それを実現するために、ホップのアルファ酸やオイルの香気成分、ホップ同士の相性などを見極めた上で、品種のセレクトや使用量などを決めています」(加地さん)。

ヒステリックIPAの場合、ホップは「シムコ」「モトウエカ」「チヌーク」「シトラ」「モザイク」を使用している。中でも優しい柑橘感と穏やかなスパイシーさを併せ持つモトウエカを、ビールを表現する骨格とした。他も主役級の活躍をするホップばかりだが、どのホップも特徴を突出させすぎることなく香りや苦味をうまく調和させている。

また、ヒステリックIPAのレシピは名古屋西醸造所の醸造設備で最高の美味しさを創り上げられるよう最適化されたものだ。定番として缶で出荷されたこともあって日本各地の広い範囲で多くの人に飲まれ、またたく間にワイマーケットブルーイングを代表する銘柄に成長した。

醸造から販売まで考えて一人前

現在、ワイマーケットブルーイングの醸造を「ブルワー」として担っているのは3名。加地さん、中西さん、そして鳥畑 誠さんだ。

左から、醸造責任者の加地真人さん、鳥畑 誠さん
主に柳橋醸造所でビールづくりを担当する中西正和さん

「うちの会社では、醸造工程に携わる、レシピがつくれるといったことだけでは『ブルワー』と呼べません。ビールをつくって売り切るまでの1から10までできること──たとえば原材料の発注から管理、店舗やイベントでの販売、事務作業までやりきれてようやく一人前ですよ」(加地さん)。

ちょっと厳しいかな、と加地さんは笑ったが、加地さん自身が酒販店・飲食店を営む立場でもある山本さんとともに、つくり手・売り手・買い手・飲み手それぞれの立場を考えた上でビールづくりをしてきたからこその言葉だろう。

そんな加地さんとともに日々研鑽に務める人々のつくるビールが、設立から現在において高い人気を誇るのもうなずける。ぜひDREAMBEERで存分に楽しんでほしい。

加地真人さんがヒステリックIPAに合わせたいフード

ローストチキン、ローストポークのように、オイルで焼いた肉との相性がいいですね。ホップの特徴は前に出ていますが香りも苦味も繊細なビールなので、スパイスは効きすぎていない方がビールと料理双方の特徴が楽しめると思います。

Y.MARKET BREWINGをDREAMBEERで購入



ヒステリックIPA